「定年後の生活に備えて、35年間コツコツ働いてきたのに……」。大手銀行の窓口業務で真面目に勤め上げた金山昇さん(仮名・68歳)を襲った予想外の危機。退職金と貯蓄を投じた不動産投資は、彼の人生を大きく狂わせることに。誰もが陥る可能性のある老後の落とし穴と、その対策法をファイナンシャルプランナー(FP)の青山創星氏が詳しく解説します。
貯蓄と退職金で3,000万円、年金月31万円で安泰の余生を送るはずだった68歳元メガバンカー。「お金のプロ」が一転、老後破産危機に陥ったワケ【FPの助言】
専門家の盲点:金融のプロが陥る心理的バイアスとリスク評価の落とし穴
「金山さん、お金のプロだからこそ、陥りやすい心理的バイアスがあるんですよ」
地域の年金セミナーで出会ったファイナンシャルプランナー(FP)の永瀬財也さん(仮名)は、そう切り出しました。
「確かに年金は銀行の年金と妻の年金も合わせると毎月31万円。でも、マンションのサブリース契約による手取り収入が当初の想定より10%も少ない。ゴルフや付き合いで10万円……。この状態では、毎月10万円程度の赤字です」
さらに、こう続けます。
「一般の銀行員と、投資の専門家は全く異なります。特に窓口業務が中心だった方が、いきなり不動産投資に踏み切るのは非常に危険です」
永瀬さんは、金山さんが陥った3つの落とし穴を解説してくれました。
1.「銀行員だから分かるはず」という思い込み
2.成功者への羨望による判断力の低下
3.契約書の細部の軽視
「特に深刻なのは、老後の基礎となる資産を投資に回してしまったこと。これは、どんな投資でも避けるべき基本中の基本です」
永瀬さんの冷静な分析を聞いて、金山さんは愕然としました。
さらに、「実は、金融のプロフェッショナルによくある心理的落とし穴があります」と永瀬さん。
「それは『ハロー効果』と呼ばれるもので、自分の専門性を過信するあまり、自分の専門外のことについても過信して誤った判断をしてしまう傾向です。特に、サブリース投資の場合、表面的なメリットに目を奪われがちです」
永瀬さんは、金山さんが見落としていた重要なポイントを指摘しました。
「サブリース契約には、見落としがちな3つの重要なリスクがあります」と永瀬さん。
「一つ目は、将来的な賃料保証額の減額リスク。二つ目は、契約解除の困難さ。そして三つ目は、サブリース会社の倒産リスクです」
金山さんは、自分が陥ったバイアスに気付かされました。後輩の紹介だから安心、大手企業との契約だから安心、という思い込みが、契約書の細部まで確認する慎重さを失わせていたのです。
「さらに深刻なのは、この状況から抜け出すのが簡単ではないということです」と永瀬さん。
「サブリース契約の解約には『正当な理由』が必要で、単に『収益が期待より低い』などという理由では認められません。最高裁の判例でも、サブリース(借家人の権利)は保護されると判断されているんです」