1,000万円の退職金を「溶かしてしまった」男性

突然ですが、質問です。1,000万円のお金を一括で振り込まれるのは、何があったときでしょうか? ごく少数の富裕層ではなく、どこにでもいる普通のサラリーマンの場合です。

一例として挙げられるのは、勤務先の会社を定年で退職し、退職金を受け取るときではないでしょうか。

統計(厚生労働省の2023年、就労条件総合調査)によると従業員1,000人以上の大企業に35年以上、勤務したケースで、一括で退職金を受け取る場合の平均は1,822万円です。

彼らは昭和に生まれ、平成に働き、令和にリタイアした世代。前述の統計で退職の理由の56%は定年。これは1度、就職したら最後まで会社が守ってくれる「終身雇用」の時代の現れでしょう。

とはいえ「人生100年」と言われており、仮に60歳で現役を終えても、まだ40年も残っています。まだまだ人生は長いので、退職金を老後の遊興費に使えれば良いですが、実際には日々の食費や生活費で胃袋に消えるのが現実です。

1,000万円単位のお金を手にして、お金持ちになった気分で、急に羽振りが良くなる人もいます。

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして老後夫婦の資金計画を立てることが多いですが、退職金を「溶かしてしまう」ケースは珍しくありません。

今回の相談者・福原一真さん(67歳)も38年間の会社員生活を終え、1,000万円の退職金を得て、家族団らんの日々を送っていたのですが、思わぬ形で落とし穴にハマってしまったのです。

何があったのでしょうか?

娘に退職金を貸した67歳男性のケース

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また家族の構成や年齢、退職金の金額、貸付の理由、貸付額、返済の条件などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

<登場人物(年齢は相談時点。名前は仮)>

父:福原一真(67歳。年金生活)※今回の相談者

母:福原節子(66歳。年金生活)

娘:福原真子(42歳。起業準備中。両親とは別居)

<父の資産(評価額は相談時点)>

厚生年金 毎月14万円

個人年金 毎月2万円

家賃収入 毎月3万円

預貯金 1,378万円(退職金1,000万円を含む)

投資信託 299万円

外貨預金 264万円

計 1,941万円(年金等の収入を除く)

一真さんは「貸した退職金が返ってこなくて困っています」と困り顔で言います。定年を迎えた2018年に退職金のうち、100万円も融通したと言うのです。貸した相手は娘の真子さん(42歳)です。彼女は旅行代理店でコールセンターで働いていました。

筆者は「なぜ100万円という大金が必要だったのですか?」と尋ねると、一真さんはため息をつきます。