娘に100万円を貸したものの…

その頃、日本を訪れる外国人観光客が急増し、訪日客の消費額も過去最高に達していました。

娘の真子さんは景気のいい数字に触発されて一念発起。「外国の人にもっと日本の魅力を伝えたい」という一心で英会話スクールへの入学を計画したのです。しかし、英会話スクールの入学金、授業料、テキスト代を用意できないので、一真さんに泣きついたのです。

一真さんは「どうしようか少し、迷いました」と振り返ります。

娘の真子さんは短大を卒業後、一般企業に就職したものの、3年で自主退職。20代の頃は正社員として2,3年おきに転職を繰り返したそう。そして30代に差し掛かると、やむを得ず派遣会社に登録したものの、派遣先で更新されず、やはり2,3年おきに派遣先を転々。会社一筋の一真さんとは相いれませんでした。一真さんは、今まで疎遠だった娘さんが急に頼み事をしてきたので驚いたそうです。

娘さんは「英語を習得し、来日した外国人を観光地に案内したい!」と熱く語ります。そんな純粋な気持ちに心打たれ、100万円を「貸した」のですが、親子の間とはいえ、「タダであげた」つもりはありませんでした。筆者が「これで終わりですか?」と尋ねると、一真さんは深いため息をつきます。

1円も返済していない娘から再度の頼み

2019年、娘さんは最低限、なんとかコミュニケーションが取れるレベルの英語を習得しました。そして勤務先の会社を退職。起業する準備を始めたのですが、今度はその資金が必要になりました。そこで彼女は「軌道にのったら利子つきで返すから」と再度、頭を下げに来たのです。

まだ最初の100万円が1円も返済されていないので躊躇したのですが、結局は追加で200万円を渡したのです。しかし、軌道にのる前に頓挫します。2020年に新型コロナウイルスが蔓延。大半の外国人は来日することが叶わず、観光業は大打撃。当然、娘さんに入ってくる仕事は皆無。返済どころではなくなったのです。

筆者が「どうするつもりですか?」と投げかけると、一真さんは「あいつのショックを考えると『300万円をちゃんと返してほしい』と言いにくいし、なんだかんだ言って親子だから」と答えます。

しかし、2022年を迎えても娘さんから連絡はなく、いよいよ借りパク(借りたまま返さず、自分のものにすること)の疑いが出てきました。一真さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは、一真さんが途方に暮れたタイミングでした。