年金が少なく生活が苦しい場合、生活保護を受けるべきでしょうか。生活保護費は一見すると年金額より多くみえますが、実は一般的に提示される生活保護費の金額の多くは住宅扶助費が占めているため、実際に自分たちが生活のために自由に使えるお金は決して多くありません。また、昨今では年金生活者の生活保護受給者が増加していますが、本来は勤労世代向けの制度であるため、特有のリスクもあります。本記事ではAさんの事例ともに、人生の晩年から逆算した生活保護受給の考え方について、オフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

質入れを利用、自転車操業の日々…過酷な時代をともに乗り越えた戦友“72歳夫”を亡くした“70歳妻”が受け取る「生活保護以下の遺族年金額」、覚悟した老後破産【FPの助言】
生活保護費以下の年金額に愕然
Aさんは現在70歳、昨年長年連れ添った2つ年上の夫を見送りました。夫との夫婦生活は決して楽しいことばかりではありませんでしたが、想像よりも早い突然の別れに、しばらくは心ここにあらず、ぼんやりとする日々が続いていました。
そんなAさんが再び気持ちを新たにしたのは、偶然テレビで見たワイドショーがきっかけ。生活保護でもらえる金額について知ったときです。Aさんは愕然としました。なぜなら、テレビで示されていた70歳おひとり様のモデル生活保護費は月約10万1,000円。夫亡きあと、Aさんが受け取れる年金額は遺族年金の月約3万6,000円をあわせて合計月6万6,000円程度でしたから、自分の年金額よりも多いことに気がついたのです。
もしかしたら自分は困窮している人よりも経済的に劣っており、底辺の生活をしているのでは……。Aさんは親から相続した持ち家を売却して、生活保護を受けたほうがいいのかと悩みはじめました。
年金が少ない理由
Aさんの年金収入は月約6万6,000円。内訳は基礎年金が約3万円で、遺族厚生年金が月約3万6,000円でした。年金受給額の平均は厚生労働省『令和4年年金制度基礎調査』によれば、70歳~74歳の女性の場合年111万5,000円、月約9万3,000円ですから、Aさんの年金額は平均よりも少ないといえます。
Aさんの年金額が少なくなってしまった最も大きな理由は、過去の経済環境とAさんの家庭環境です。Aさんはずっと夫の扶養に入り、子どもを育てながら家計を切り盛りしていたのですが、夫には過去に職が不安定な時期がありました。1993年から2004年ごろまでの就職氷河期といわれている時期、夫は新卒ではなかったものの会社を退職してしまい、その後、安定して職につけない時期が続いていたのです。
Aさんも子育てをしながら、パートで働き家計を支えていましたが、質入れなどを利用しながらの自転車操業だったため、貯金は少なく、夫の死後受け取った死亡保険金を含め、約300万円を確保できた状況でした。また、Aさんの子どもは離れて別居しており、経済的に頼ることはできません。
Aさんは年をかさね、健康にも不安を感じはじめていました。夫という大黒柱を失ったAさんは先行きを不安に思い、特に経済的な頼りを切望していました「このままでは最悪、老後破産するかもしれない……」。