生活保護の現実と希望

Aさんが生活保護の相談を進めるなかでわかったことは以下のとおりです。 

  • もし受給する場合、生活保護費計算の基準となる最低生活費認定額の目安は月約11万2,000円
     
  • 住宅扶助がない場合は約6万9,000円
     
  • 持ち家のまま受けられる可能性はあるが、現在預貯金があるため、すぐに受けることはできない

Aさんの年金額は月約6万6,000円だったため、もし仮にAさんが持ち家のまま生活保護を受給する場合、生活保護費の目安額は月3,000円でした。年金生活を続けるより生活保護を受け取ったほうがいい生活を送れるのでは?と期待していたAさんは、厳しい現実にがっかりしました。

しかし、Aさんは生活保護の相談をしたことで気づけたことがありました。それは、当初、自分の年金額は生活保護費を大きく下回ると思っていたものの、実際は持ち家であるため、大きな差があったわけではないということ。そして、最終的に持ち家はお金に換えることもできるということでした。

ずっといまの家に住みつづけていくと思い込んでいたAさんにとって、新しい発見だったのです。

Aさんはふと、90歳で亡くなった母親のことを思い出しました。持ち家に住んでいた母親も貯金は少なく、年金は月6万円程度でしたが、それでもそれなりに本人は幸せそうに暮らしていました。一度は絶望したAさんでしたが、自分の現状を落ち着いて捉えることができ、徐々に自分の生活に心のゆとりを取り戻していきます。

人生の晩年から逆算した生活保護の考え方

生活保護費は一見すると年金額より多く見えますが、一般的に提示される“生活保護費”は多くを住宅扶助費が占めているため、実際に自分たちが生活のために自由に使えるお金は決して多くありません。また、医療扶助や介護扶助もありますが、基準に該当しないと受けられないうえ、現在健康なのであればいつ利用できるかはわかりません。

自身の預貯金であれば、取り崩す金額を自分でコントロールすることができますが、生活保護費を自分でコントロールすることはできないため、年金生活とは異なるリスクを負うことを理解しておくべきです。自宅があるのであれば、最近では、リバースモーゲージやリースバックといった自宅を現金化しやすいしくみもあります。

もちろん利用にあたって条件がありますし、多くの場合、結果的に自宅を安く売ることとなるため、慎重な検討が必要です。しかし、生活資金をみずから調達するための選択肢の1つとなるでしょう。たとえいまの収入を増やせたとしても、人生の晩年に不本意な生活を送ることとなるのであれば、後悔が残るかもしれません。

年金生活において生活保護の受給を検討する場合は、年金生活とは異なるリスクを踏まえ、活用できるご自身の資産を丁寧に洗い出したうえで検討しましょう。


内田 英子
FPオフィスツクル代表
ファイナンシャルプランナー