年金が少なく生活が苦しい場合、生活保護を受けるべきでしょうか。生活保護費は一見すると年金額より多くみえますが、実は一般的に提示される生活保護費の金額の多くは住宅扶助費が占めているため、実際に自分たちが生活のために自由に使えるお金は決して多くありません。また、昨今では年金生活者の生活保護受給者が増加していますが、本来は勤労世代向けの制度であるため、特有のリスクもあります。本記事ではAさんの事例ともに、人生の晩年から逆算した生活保護受給の考え方について、オフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

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生活保護制度の内容とリスク
生活保護制度は、最低生活の保障と自立の助長を目的とし、経済的に困窮した人々が最低限度の生活を維持できるように支援するセーフティネットです。生活保護法に基づき、国と地方自治体が共同で運営しています。生活保護には以下のような8つの扶助があります。資産や能力等すべてを活用してもなお生活が困窮し、扶養義務者からの支援が受けられない、または十分でない場合に、困窮の程度や状況に応じて必要な援助を受けることができます。
支給は原則として世帯単位で行われ、厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費から世帯全体の収入を差し引いた差額が支給される保護費となります。最低生活費は自分で決められるわけではありません。計算する基準が複数設けられており、年齢や性別、家族構成や地域、家庭の事情を踏まえて加算し、最低生活費が決定されます。
たとえば、Aさんと同じ70歳のおひとり様であれば以下のようになります。
(東京都23区の場合)約12万8,000円
(埼玉県川越市の場合)約11万2,000円
(群馬県伊勢崎市の場合)約9万7,000円
なお、上記金額には住宅扶助が含まれているため、持ち家のまま生活保護費を受給される場合は、住宅扶助額の分少なくなります。住宅扶助額は地域によって異なりますが、最大5万3,900円~4万900円です。
障害者要件を満たす場合は、障害の度合いに応じて金額が加算されます。身体障害者障害程度等級表1・2級に該当する場合は、2万6,810~2万3,060円で、身体障害者障害程度等級表3級に該当する場合は1万7,870~1万5,380円です。申請は市区町村の福祉事務所で行い、ケースワーカーによる調査のあと、支給の可否が決定されます。
一方、生活保護制度は最低限度の生活を保護することを目的としながらも、昨今急速に進んでいる物価上昇や経済状況の変化には対応できておらず、制度運用の見直しが求められています。現状では必ずしも最低生活の保障がなされているとはいいがたい状況にあるため、年金生活者の生活保護受給には慎重な検討が必要です。
なお、最近は年金受給者の生活保護受給者が増加しているため、「年金生活者が受けるもの」といったイメージもありますが、生活保護制度の目的は最低生活の保障と自立の助長です。受給者は自立を目指す義務があります。したがって、生活保護制度は特に若い人や勤労世代に向いているセーフティネットといえるでしょう。