着付けには補正が必要？

礼装の世界は衿を正す場面ですから、着物の衿元は詰めて着ます。衿元が開いているとだらしなく見えるからです。洋服のカッターシャツの一番上のボタンをはずしているとだらしなく映るのと同じことです。

胸元などに、シワひとつないようにタオルなどの補正を入れる着方が正しいように着物警察は主張しますが、筆者はやりすぎだと思います。自分の寸法に合っているものを着ていたらそれでよいのではないでしょうか。

もともと着物を着るときには、じっと静止しているだけではなく、動くこともあるのですから、ある程度生地に余裕、シワがないと動きづらいでしょう。着物を日常に着ていた時代の写真を見ると、現在の着物雑誌にでてくるように胸元にシワひとつよらない、防弾チョッキのような補正をして着物を着ている人なんていません。そんな窮屈な着方を強いるから着物を着たくなくない、という人が増えるのです。筆者は毎日着物を着ていますが、いっさい補正はしません。

着物によるさまざまなメリット

以上のように、特に慶事の礼装着の世界には、若干の決まりごとがあります。でも普段着の世界は、ほぼ自由です。

ひとつ注意するとしたら、なにも羽織らずに帯をさらしている姿（帯付き姿）はラフな印象になるので、出かける場所によっては、羽織やコートなどを着物の上に羽織って帯を隠したスタイルのほうが上品な印象でよいかと思います。洋服でもTシャツ姿よりジャケットを羽織ったほうが上品になるのと同じ流れです。

「着物は着るのが大変」という人がいますが、着物にはさまざまなメリットがあります。着物を着ると、太い帯がコルセット代わりになり、背筋が伸びて姿勢がよくなります。背筋の伸びた姿勢を矯正することで、体幹が鍛えられ、カロリー消費があがり、痩せやすくなると唱える人もいらっしゃいます。

また、着物といえば素材はシルクが多いですが、シルクのたんぱく質は人肌に近くお肌に優しいのです。弊社の敏感肌の若い社員からは着物生活にしてから、肌のかゆみが和らいだという話もありました。また、帯でお腹を締めるので下腹にあるツボ（丹田）に氣がこもり、上半身に氣が上がらず、心が落ち着くといわれています。日本人の穏やかな気性は着物が育んできたともいわれています（＝腰肚（こしはら）文化）。このように、着物を着るということは、本来はとっても気持ちがいいものなのです。

確かに着物を着ていると、着物警察に出会うこともあるかもしれません。しかしそれよりも、周りから褒められたり、羨望のまなざしを受けたりといった嬉しさのほうが大きいでしょう。店のお客様20名程と、何度か海外に着物ツアーに出かけたことがありますが、バスを降りるとカメラに囲まれるわ、どこに行っても声をかけられるわで、それはもう映画スターのような扱いで、気分は最高でした。着物は世界の憧れでもあるのです。

着物警察なんて気にせず、着物を着て、さあ出かけましょう！

池田 訓之
株式会社和想　代表取締役社長