さまざまな世界に存在している「〇〇警察」。着物の世界でも、着付けや着こなしについて一言モノ申したいお節介な「着物警察」がいるようで……。本記事では、山陰地方で呉服店を経営、和と着物の専門家である池田訓之氏が、最低限守るべき着物のルールについて解説します。
「知らない人に背後から突然いじられた」「あなたの組み合わせ、おかしいわよ」…街中で絡んでくる“着物警察”、呉服店主人にまで挑むヤカラたち
呉服店主人が見た「着物警察」
「街には着物警察がうろついているから、あまり着物を着て出かけたくない……」
そんなお声をしばしば耳にすることがあります。コロナ禍に「マスク警察」などが話題になりましたが、実は着物の世界にも「着物警察」と呼ばれる人々が存在するのです。着物警察がどんな人々かといえば、「着物を着ている人に対して、着こなしがおかしいなどと一方的に意見をしてきたり、修正を強要してきたりする輩」といったところでしょうか。
たとえば、友人と食事に出かけてパウダールームで化粧直しをしていると、見ず知らずの人に後ろからいきなり帯結びを直されたとか、横断歩道で信号待ちをしていると、隣のご婦人に「着物っていいわね。でも、あなたの着物と帯のコーディネートはおかしいわよ」と注意された、等々です。
筆者自身もほぼ毎日着物を着ているので、これまでに何度か着物警察に遭遇したことがあります。これは10年くらい前になりますが、経営している店の近くの駐車場のエレベーターに乗っていた際に、見知らぬ60歳くらいの派手な洋服姿のマダムから急に声をかけられました。
「なんだろう」と思って振り向くと、そのマダムが「あなた落語家さん? 派手な着物ね~!」と明らかにけなすような言い方をしてきました。
筆者は、「あなたの服のほうが派手やろ。私がなにを着ようと自由やん。ほっといて~」といいたかったのですが、無用な争いはしたくなかったので、黙って愛想笑いを返して、なにも取り合いませんでした。ばからしくて、その後は笑い話にしています。
着物警察はなぜ存在するのか?
本来着物は日常着でしたが、戦後に着る人がどんどん減っていくなかで、着物はめったに着ないから、逆に勝負着として周りに差をつける特別なもの、と高級志向になっていきました。そして、せっかく高いお金をだして買ったのだから、美しく着る着方を伝授しましょう、と着物の着方を教える学校が誕生します。そして着物学校は、どんどんカリキュラムを増やし、学費も上げていきました。
卒業した人は、せっかく大枚はたいて獲得した卒業証書だから、その成果を人にひけらかしたい、と思うのが人の常。ということで、着物姿の人を見かけると、一言二言、着物への権威を披露しようとする輩が出現しだしたのです。