さまざまな世界に存在している「〇〇警察」。着物の世界でも、着付けや着こなしについて一言モノ申したいお節介な「着物警察」がいるようで……。本記事では、山陰地方で呉服店を経営、和と着物の専門家である池田訓之氏が、最低限守るべき着物のルールについて解説します。
「知らない人に背後から突然いじられた」「あなたの組み合わせ、おかしいわよ」…街中で絡んでくる“着物警察”、呉服店主人にまで挑むヤカラたち
着物はもっと自由に楽しめるものであるべき
礼装着の世界は、衿を正して出席しないといけませんので、いくつか注意すべき点はあります。しかし、普段着の世界は、ほぼ自由だと思います。
洋服の普段着は、スカートでも、長いパンツでも、短いパンツスタイルでも、服がダブダブでもピチピチでも、半袖でも長袖でも季節感も人それぞれ、自由ですよね。だったら着物も普段着の世界は自由でよいのではないでしょうか。
コロナ禍前には、筆者が営む呉服店は、ロンドンにも支店を出していました。ターゲットとするお客様はヨーロッパ人。彼女たちは、そもそも理想の着物姿のイメージがないので、着物をジャケットやコート代わりに洋服の上に羽織るのは当たり前。片方の肩を出して着物を着たり、着物を腰に巻きつけてスカートにしたり、帯の代わりにベルトをしたりと、本当に自由に着物を着ていました。普段着物を着るときには、このように自分流でいいと思います。
着物警察の一番の勘違いは、自分が習った着物観を、自由であるべき普段着にも押しつけようとする点でしょう。
慶事に着物を着る際の3つのルール
洋装の礼装着(ドレスや礼服)の着こなしには、衿を正して参加するべき場面なので、若干の決まりごとがありますね。これは着物の礼装着の世界でも同じことです。特に慶事は着ていけそうな着物の種類が多いので、少し迷いますね。でも着物学校で教わらなければいけないほど複雑ではありません。ポイントは3つです。
1.慶事の礼装着は豪華に
洋装の慶事では豪華に着飾りますが、その価値観は着物も同じです。柄は着物の縫い目をわたって、1枚の絵のようにつながっている絵羽(えば)柄、ないしは柄が前でも後ろでも上下が定められている柄づけの着物が代表的なコーディネートです。留袖、訪問着、振袖、付け下げ(訪問着に準じる格の高さの着物)がそうなっていますね。さらに、金銀色や刺繍が入っていると豪華に見えます。帯も金銀色が入っているのが礼装用です。帯締め、帯揚げ、草履、バックなどの小物も光沢のある素材のものが慶事の礼装用となります。
2.染めの着物に織りの帯
歴史的に、着物は染物がどんどん豪華に発展していきました。そのため、染めの着物のほうが織りの着物よりも格が高いという大原則があります。柄がなく色を染めただけの色無地の着物や遠目に色無地に見える江戸小紋(鮫、通し、行儀、あられ、縞の5柄)の着物は見た目の豪華さはありませんが、染めの着物なので礼装としても使用できます(家紋を1つ入れると、よりふさわしくなります)。帯は逆の歴史で、織物が礼装用になります。
3.祝い事は重ねる
祝い事は何度も重なれば嬉しい、ということで、慶事の礼装着の帯は袋帯です。袋帯は長いのでお太鼓結びの太鼓部分が二重に重なるように結べるからです。重ね衿をいれるのも重ねるためです。ちなみに弔辞は重なるのはよくないので、太鼓が一重にしかならない黒い名古屋帯(黒共(くろとも)帯)を締めるのです。