現代社会では、学歴や職業がしばしば人の価値を測る基準として重視されがちです。しかし、経済的な成功や社会的な地位を得るために重要視される学歴は、果たして本当に人間の価値を決定づけるものなのでしょうか。特に、家庭内で「できない自分」を否定され続けた子どもたちが、社会に出たときに感じる生きづらさは計り知れません。経済的な成功を追い求めるあまり、自己肯定感や安心感を犠牲にしてしまうことが、最終的には心身の健康に悪影響をおよぼすこともあります。公認心理士でもある精神科医さわ氏の著書『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)より、みていきましょう。
「なにがしたいのかわからない」教育熱心な父に責められ続けた息子…“安心できない家”で育った子どもの悲しすぎる未来【精神科医が警鐘】 (※画像はイメージです/PIXTA)

親に否定され続けた子ども

「頭のデキが悪いおまえは、生きてる価値がない」

 

私が精神科医になりたてのころに出会った20代の男性の患者さんは、そう父親に言われ続け、ずっと苦しんでいました。両親とも公務員で、教育に力を入れている家庭で育ち、姉は第一志望の国立大学に合格。

 

一方、すべり止めの私立大学にしか受からなかったその男性を、父親は小さなころからよくできる姉と比較して「おまえはなにをやらせてもダメだ」「できそこない」などの否定的な言葉で責め続けました。父親は「こんなふうに育ったのは、おまえの責任だ」と妻のことも責め、息子だけでなく妻にも「家から出て行け」と言ったこともあったそうです。

 

「自分がなにをしたいのかよくわからない……」と話していたその男性は、仕事でのちょっとした失敗をきっかけに自ら死を選んでしまいました。私にとって、つらく悲しい経験でした。どのような声かけや治療が彼を救えたのだろうと今でも振り返ることがよくあります。

 

あなたはあなたであることが素晴らしい

国立大学であっても、私立大学であっても、大学に行っても行かなくても、人としての価値にはひとつも変わりがない。あなたはあなたであることが素晴らしいんだ。そう認め合える家庭だったら、こうした悲劇は起こらなかったのではないかと思います。

 

また、お母さんやお父さんがいつもイライラしていて子どもに厳しく接している家庭で育った人の中には、大人になってからもずっと生きづらさを抱えている人も多いです。さらに自分の存在そのものを認めてもらってこなかった人は、「偏差値の高い大学に入る」「有名企業に採用される」といった、目に見えるかたちでしか自分の価値を測れなくなることもあります。そして、それが叶わなかったときや彼のようにちょっとした失敗をしたときに、再び立ち上がることが困難になってしまいます。