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親に否定され続けた子ども
「頭のデキが悪いおまえは、生きてる価値がない」
私が精神科医になりたてのころに出会った20代の男性の患者さんは、そう父親に言われ続け、ずっと苦しんでいました。両親とも公務員で、教育に力を入れている家庭で育ち、姉は第一志望の国立大学に合格。
一方、すべり止めの私立大学にしか受からなかったその男性を、父親は小さなころからよくできる姉と比較して「おまえはなにをやらせてもダメだ」「できそこない」などの否定的な言葉で責め続けました。父親は「こんなふうに育ったのは、おまえの責任だ」と妻のことも責め、息子だけでなく妻にも「家から出て行け」と言ったこともあったそうです。
「自分がなにをしたいのかよくわからない……」と話していたその男性は、仕事でのちょっとした失敗をきっかけに自ら死を選んでしまいました。私にとって、つらく悲しい経験でした。どのような声かけや治療が彼を救えたのだろうと今でも振り返ることがよくあります。
あなたはあなたであることが素晴らしい
国立大学であっても、私立大学であっても、大学に行っても行かなくても、人としての価値にはひとつも変わりがない。あなたはあなたであることが素晴らしいんだ。そう認め合える家庭だったら、こうした悲劇は起こらなかったのではないかと思います。
また、お母さんやお父さんがいつもイライラしていて子どもに厳しく接している家庭で育った人の中には、大人になってからもずっと生きづらさを抱えている人も多いです。さらに自分の存在そのものを認めてもらってこなかった人は、「偏差値の高い大学に入る」「有名企業に採用される」といった、目に見えるかたちでしか自分の価値を測れなくなることもあります。そして、それが叶わなかったときや彼のようにちょっとした失敗をしたときに、再び立ち上がることが困難になってしまいます。