英国では「都心離れ」の傾向が強まっています。その背景には、単なる経済的理由だけでなく、英国人特有の「カントリーサイドでの暮らし」への憧れや、住まいを自己表現の場として捉える文化があります。 本記事では、イメージコンサルタント・テート小畠利子氏の著書『英国流 「自分に似合う」住まいの作り方:1人の時間も、みんなとの時間も、豊かで楽しい』(大和出版)より一部を抜粋・再編集し、英国人が「住む家」に命をかける理由と、その独特な住宅観について深掘りします。
英国人が「住む家」に命をかけるワケ
あなたは、今の自分の住まいが好きですか?
「賃貸物件だから狭いし、建物が古すぎて、どうにもできない」
「ゴチャゴチャしているのはわかっていても、どう手をつけていいのかわからない」
もしそうだとしても、環境とは良くも悪くも、私たちの心を左右するもの。帰って寝るだけの住まいでも、1日の3分の1の時間を過ごします。今やリモートワークも珍しくなく、自分自身と住まいとは密接な関係にありますよね。服を着ればそれが自分の一部であるように、住まいも自分の一部なのです。したがって日々の忙しさに振り回されず、常に自分を保つには、自分自身に似合った住まいに暮らすことが大切なのです。
私はこれまで30年近くロンドンで暮らしてきましたが、大いにして「英国人は住まいに底知れない価値を置く」と確信しています。英国人にとって「住まい」は単に暮らす空間ではなく、自分のライフスタイルの基盤となる場所です。歴史や芸術、文化を大切にし、それを誇りに思う国民。だからこそ、古い物件をこよなく愛し、原形を保ちつつ、時代に合った快適な暮らしを追求します。
また、英国人特有ともいえる願望を抱いています。それは、「今は仕事や、子供たちの学校の都合でなかなか実現できないとしても、いつかは都心を離れてカントリーサイド(田舎)で暮らしたい」という夢。リモートワークで仕事の環境が変わった、あるいは退職して暮らしの環境が変わったことで、経済的余裕ができると、都心と田舎の両方に住まいを構える人もいます。たとえその家が豪邸でなく、かわいいコテージでも、美しい田舎暮らしを夢見る思いは、英国人のDNAにあるという説さえあります。
そしてもうひとつ大きな理由があると思われます。それは英国の物件投資には経済的メリットがあるということ。英国の物件は高いです。
ロンドンの平均物件価格は2024年8月現在で、日本円にして1億円を超えます。しかし地震の心配はなく、古いものに価値を見出すからこそ、古い物件ほどプレミアムがつきます。そして英国の物件価格は上下しても暴落はしません。一度物件を購入できれば、より広く快適な住まいに買い替えたり、複数物件を購入することも可能になります。
したがって、売却しないとしても、自分に似合う住まいに暮らすことは快適で心地よく、また、地域差があっても、物件の価値は上昇していくのです。

では、次のページからは、英国人にとって「自分に似合う住まいとは何か」について、著名人の名言を交えながら、ご紹介していきましょう。