英国では「都心離れ」の傾向が強まっています。その背景には、単なる経済的理由だけでなく、英国人特有の「カントリーサイドでの暮らし」への憧れや、住まいを自己表現の場として捉える文化があります。 本記事では、イメージコンサルタント・テート小畠利子氏の著書『英国流 「自分に似合う」住まいの作り方:1人の時間も、みんなとの時間も、豊かで楽しい』(大和出版)より一部を抜粋・再編集し、英国人が「住む家」に命をかける理由と、その独特な住宅観について深掘りします。
「一番幸せ」を感じる様々な要素
「うちで暮らしていたときのほうが、よっぽど心地よかった」
ウィリアム・シェイクスピア
“When I was at home, I was in a better place”
William Shakespeare
『ロミオとジュリエット』ほか、16~17世紀初期に数々の名作を生み出した英国の劇作家として知られるウィリアム・シェイクスピア。「うちで暮らしていたときのほうが、よっぽど心地よかった」という名言は『お気に召すまま』の作中で宮廷からアーデンの森に移り住んだ道化・タッチストーンの名言です。
そこが「一番幸せ」と感じるためには、いろいろな要素があるでしょう。自分の好きな場所や環境にあり、外観も内装も自分好み。そして、同居する人たちやペットにとっても心地いい場所であることは、無視できない大切な要因です。
さて、シェイクスピアが1590年前後にロンドンに引っ越してから暮らしたとされる住まいは、現在はオフィスビルに代わっています。1992年のアイルランド共和国軍の爆撃で、彼の住まいのそばにあった教会の建物や窓は被害に遭いましたが、彼の肖像画が入ったステンドグラスを含め、3つだけは被害を逃れたそうです。
ひょっとするとシェイクスピアの自宅には机の前に窓があり、外を見ればこの教会が見えていたのではないでしょうか。
お気に入りの色や柄、素材を取り入れるだけでも素敵なインテリアに
「役に立つものか、美しいと思うものしか家には置かない」
ウィリアム・モリス
“Have nothing in your houses that you do not know to be useful or believe to be beautiful ”
William Morris
19世紀のアーツ・アンド・クラフツ運動(1860年代の英国において、生活に手仕事の美を取り入れることを目指したアート活動)の主導者で、詩人やテキスタイルデザイナーとしても知られるウィリアム・モリス。「生活に必要なものこそ美しくあるべきだ」と考えるアーツ・アンド・クラフツ運動の主導者らしい名言ですね。
産業革命によって機械化が進み、安価で大量生産が可能となりましたが、便宜性が進む一方、低品質が普及し、モリスは手仕事から生まれる美が欠けることに危機感を抱いていました。機能性のある家具や生活用具は便利で暮らしをラクにしてくれますが、それだけでは必ずしも心を満たしてくれるとは限りません。美は人の心を癒してくれ、ワクワク感と喜びを呼ぶ力があるからです。
英国の老舗デパート・リバティでは、ウィリアム・モリスの品位ある美しい植物柄の壁紙やカーテン生地は根強い人気があります。ウィリアム・モリスの柄に限らず、お気に入りの色や柄、素材を、クッションやテーブルクロス、ナプキンなどに取り入れるだけで、大掛かりなことをしなくても、きっと一気に自分好みのインテリアに生まれ変わることでしょう。
テート小畠利子
『トーキングイメージ』代表
イメージコンサルティング・養成