年金の繰下げ受給を選択した結果、70歳以降「月33万円」の年金がもらえるとわかり、思い切り“悠々自適な暮らし”を楽しんでいたある夫婦。しかし、年金事務所で提示された“実際の年金受給額”に愕然としてしまいました。いったいなにがあったのか、年金の繰下げ受給で見落としがちな「盲点」について詳しくみていきましょう。ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が解説します。
年金月33万円で“余裕の老後”のはずが…60代仲良し夫婦〈年金ルール〉知らず、想定外の減額に絶望「年金繰下げなんてしなきゃよかった」【CFPの助言】
繰下げ受給で「月33万円」のはずが…年金額は「月25万円」に
その後、良樹さんは70歳を迎えました。これまで勤め続けた会社を退職し、いよいよ年金生活が始まります。
「5年間待ったんだ。これからも繰り下げた年金で暮らしは安泰だな」
期待を胸に抱き、翌月から受け取れる年金額を確認しようと、軽い足取りで年金事務所を訪れました。しかし……。
良樹さんは、年金事務所から提示された年金額をみて、思わず言葉を失いました。
なんと、良樹さんが受け取れる年金額は月22万6,000円。富美子さんの老齢基礎年金5万円を合わせても、月27万6,000円だというのです。自身の計算では、月33万円程度になるはずでしたから、約5万円も少ない金額に愕然としました。
良樹さんは状況を把握できず、担当者に確認しました。
「ちょっと、5年間も年金を繰り下げたのに、ほとんど増えていないのはどういうこと? そちらの計算ミスじゃないのか?」
良樹さんは湧き上がる怒りを抑えながら、担当者に詰め寄りました。すると、担当者は申し訳なさそうに言います。
「水島さまの場合、総報酬額と本来の年金受給額が50万円を超えていたため、『在職老齢年金制度』が適用されます。その結果、在職中に支給停止となっていた老齢厚生年金部分については、繰下げ受給による増額の対象外となってしまうのです」
繰下げ受給によって大幅に増えると信じていた年金額は、良樹さんが65歳以降も高収入であったために減額となってしまったのです。
「まさか、そんな……こんなことなら繰下げ受給なんてしなきゃよかった」
良樹さんは思わず独り言を漏らし、頭を抱えました。
税金や社会保険料を差し引くと、年金の手取りは「25万円」に
その後、さらに追い打ちをかける事実が良樹さんを待ち受けていました。年金額には税金や社会保険料が発生し、それらを差し引いたあとの夫婦の年金手取り額は25万円まで減少することがわかったのです。
現役時代も十分な収入があり、定年後も散々豊かに過ごしてきた水島さん夫婦ですから、急にこの金額に合わせた水準に生活を切り詰めることは容易ではありません。
「大事な貯金も5年間で1,000万円も食いつぶしてしまった。これからどうやってやりくりすればいいんだ……」かつては「安心な老後」を確信していたはずが、一転して予想外の状況に追い込まれ、途方に暮れる良樹さんでした。