(※画像はイメージです/PIXTA)

医師業は多忙なうえ、自らの判断が人命を左右するという重責にも耐えなければなりません。狭き門をくぐって医師になったとはいえ、医師もひとりの人間です。そんな日々で心の余裕を失わないために――都内で3姉妹を育てながら心療内科クリニックを開業した興梠真紀氏が、「手放す」ことで医師人生に隙間を作るコツを紹介します。優先順位の仕訳、決断時間の制限、自己メンテナンスの工夫。開業時の実体験から生まれた、医師が倒れずに人生を続けるためのメンタル管理術です。

多忙な日々でも欠かせない「医師のメンタル管理」

筆者は東京恵比寿で心療内科クリニックを経営しています

 

40代後半で3姉妹の子育ても少し落ち着き始めたころ、「ちょっと新しいことに挑戦してみようかな」という軽い気持ちで開業しましたが、これがなかなかに大変でした。

 

外来やルーティン業務だけでもやることが多いのですが、こんな小さなクリニックでも日々事件が起こり、その対処や決め事で1日があっという間に終わってしまいます。

 

1日のスケジュール

6時  起床

子どもと自分のお弁当を作る・バラバラに起きてくる家族に食べさせる

8時 出勤

8時半~19時半 仕事(外来・クリニック運営会議・院長業務など)

20時半 帰宅・子どもの塾のお迎え・食事準備 家族と夜ごはん 入浴

23時  瞑想&就寝

 

今回、医師のメンタル管理というお題をいただいたので、怒涛の日々のなかで自分自身がラクに過ごせるように工夫していることを、あくまでも等身大でお伝えします。

 

これを読んでくれた医師のメンタルが、少しでもラクになると嬉しいです。

多忙にならざるをえない「医師」という職業

筆者は、日常生活で下記の5つを徹底しています

 

手放すものを決める

・たいていのことはさっさと決定してしまう

悪口は妄想と心得る

楽しい時間を作る

相談する

 

読者のみなさまは「なんだ、たいしたことないな」と感じるかもしれません。しかしこれは、育児と仕事を両立させるために、何年もかけて編み出してきた技です。3姉妹の母である筆者には、がむしゃらに走り切って、ばたんと倒れる、という選択肢はありません。毎日手のかかる子どもたちのお世話を確実にするには、かっこよくやりきる達成感や気分のよさより、倒れずに地道に続けていくことのほうが重要なのです。

 

医師業はとにかく多忙です。外来、手術などの「集中本業」以外にも病院、クリニック……どこにいても、ひっきりなしに呼び出され、相談、決め事が積み重なります。これがやりがいにもつながっていますが、度が過ぎるとやはりストレスのもとになります。

 

さらに、どんなに一生懸命でも患者さんに満足してもらえるとは限らず、ときに石を投げられることもあります

心の余裕を生む「仕訳」の極意

そこで、おすすめなのが自分のなかでの「仕訳です。

 

自分が大切にしたいことは何か、将来に向けて進めていきたいことは何なのか、と考えると、おのずと優先順位がついてきます。

 

私の場合、一番大事なのは家族と過ごす時間。その次に大事なのは、自分を育ててくれた社会への恩返しとして、クリニックを盛り上げていくこと。

 

正直このふたつでかなりおなかいっぱいです。とはいえ、開業したからにはスタッフ、心理師、非常勤医師の雇用に対しても責任を持ちたいと思っています。

 

そして、仕訳を進めた結果、開業時に家事を手放すことを決めました。

 

家事は大事です。おいしい料理は家族の核になりますし、きれいな家は安らぎの場です。ただ、開業後にこれを手放さない限り、がんじがらめになって疲弊するであろうことは目に見えていました。子どもたちからは「もっとママの料理食べたい」と言われるので心も揺れますが、普段はお料理の上手なプロに我が家の食卓をお願いして、誕生日、クリスマス、連休の日だけ頑張って帳尻を合わせています

 

男性医師であっても、忙しい日常に飲み込まれて流されないように優先順位をつけて仕訳していくと、ずいぶん身軽になるのではないかと思います。

 

仕事、仕事に関する講演、学会、家族との時間、自分の趣味やひとりの時間、健康……。

 

何を最も大切にするかは人それぞれでしょう。ただ、気になるものすべてを追いかけることは不可能です。そこで、「手放すもの」を見極めるためにも優先順位をつけることをお勧めします。

 

3番目、4番目くらいに位置する“それなりに大事なもの”を思い切って仕訳するのがお勧めです。間違いなく心にスペースができます。

 

こうやって「やることを減らすこと」でストレスを溜めずに、スケジュールが過密になることも防いでいます。

心の平穏を確保するもう1つの時間管理術

時間管理術としてもう1つ気に入っている方法が、決め事をするときに「そこに充ててよい時間」を設定してしまうことです。

 

人生も長くなると、さまざまな要素が絡み合い即決できないようなことが出てくると思います。ただ経験上、そういう問題は頭のなかで何日も「どうしよう」と考え続けたところで、妙案がでてくるものでもありません

 

筆者の場合、結局は「締め切り間際の15分から長くても30分くらいで決めている」ということに気づいたのです。それからは、決定タイムを頭に持ってくることにしました。

 

「30分で決めてしまう」と、時間制限を設けて答えを出してしまいます。完璧な解でなくても、そのときのベストで十分です。

 

こうすることで、心を重くする“どうしようタイム”をぎゅっと圧縮することができます。

 

さっさと決めてしまえば時間も余裕があるため、あとから修正することも可能です。一旦区切りをつけて脳のスペースを空けてあげると心も軽くなります。

 

嫌な口コミも返事は5分以内で作って、書いたらもうおしまい、ポイです。悪口は妄想ですから。

 

ここまでは引き算のマネジメントを消化しました。ですが、充実した人生のためには足し算も組み合わせたいところです。

医師業における「自己メンテナンス」のコツ

私の場合は、同期や仲のいい女医仲間との気楽な食事会がリフレッシュになっています。

 

普段の職場での立場、家庭の本分から離れて、学生時代に戻ったように好き勝手おしゃべりします。これだけなのですが、同じ医師でも、人生の歩み方はそれぞれ、学びもあり、発散もあり、楽しい情報も交換して思い切りリフレッシュします。

 

「なんだか最近仕事のことばかり考えている……」

 

そう思ったとき、自ら会を企画して、仲間から元気をもらっています。いわば陽の発散です。

 

職業柄、「医師は相談される立場だから弱音を吐いてはいけない」と、自分を過剰に律している人も少なくないでしょう。人に指示して動かすことはできても、頼るのは苦手な人が多い気がします

 

私の心療内科クリニックにも、何人か医師の患者がいます。みなさん、さんざん悩んだ末に来院されています。「自己管理能力がないと思われるかもしれない」と不安を口にするのを聞きました。

 

医師というのは重責の職務なので、責任感の強さも必要不可欠です。しかし、人生全体に対しては医師の立場を離れて、もっと「素」で向き合ってもいいのではないかと思います。

 

悩みを伺ってみると、お子さんのこと、親御さんのこと、職場の同僚のことなど、一般的な内容がほとんど。自分一人で思い悩むだけではなく、信頼できる第三者とともに自らを整える、という形で当院を利用してくれているようです。

 

同じように人とかかわる方法でも、こちらは静謐な自己調整です。

 

陽の発散静謐な自己調整、自身にしっくりくる方法を考えてみてはいかがでしょうか。

適切な「メンタル管理」で心を身軽に

診療報酬の改定をはじめ、医師にとってますます厳しい時代となるなか、日々のストレスも多いと思います。しかし、医師は責任とともに世の中に貢献する喜びや誇りも感じられる素晴らしい職業です

 

重責を背負っているからこそ、手放せるものは手放して、身も心も軽くしていきましょう。

 

悩むのは1人の人間として当たり前のこと、医師という立場から離れて、素になって重荷を置くことも大切です。人生は泣いても笑っても1回なので、楽しく進んで「ああいい人生だった」と終わりたいですね。

 

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著者:興梠 真紀

東京はなクリニック 院長

提供:© Medical LIVES / シャープファイナンス