辞めてしまうことのデメリット

ここまで、「会社や上司に相談する」という選択の前に、「証拠集め」をすることを提案してきた。もう1つの「会社を辞める」という典型的な選択についても、その前に検討すべきことがある。「会社を休む」という選択肢だ。

もちろん、ハラスメントが起きている職場を速やかに離れるという判断じたいは重要だ。会社を辞めることに罪悪感を覚える必要もない。被害の継続により、精神を病んだり、症状が重くなったりする可能性がある。

いったん破壊されたメンタルヘルスを、回復させるのは容易ではない。たとえ賠償金が払われ、謝罪を受けたとしても、そうそう治るものではない。メンタルが壊れてしまえば、争う気力だって奪われてしまう。

しかし、いきなり退職してしまうことにはデメリットもある。退職すると、当然だが収入が途絶えてしまう。すぐに仕事が見つかり、その仕事が良い労働条件で、かつ良好な精神状態で働き始められるのなら、それで良いという考え方もあるだろう。

だが現実には、なかなか良い求人がなく、以前にも増して劣悪な待遇の職場しか見つからないことが多い。収入が途絶えてしまうため、求職活動に使える時間的余裕がなく、希望に沿わない会社でも選ばなければならなくなってしまう。

辞める前に、休もう

そこで、辞める前に、まず休むという対応を考えてみてほしい。なんとか病院に行って診断書を取り、休職が必要であると書いてもらい、それを理由に会社を休む。次に、健康保険の傷病手当金を請求するという手順だ。連続して4日以上休職すれば、4日目から支給の対象になり、支給額は元の賃金の3分の2ほどだが、無給よりはよっぽどマシだ。

注意しておくべきこととして、職場の就業規則を読んで、休職可能な期間がどれくらいあるかを確認しておこう。その期間を超えて休職した場合、退職扱いにされてしまうリスクがあるからだ。

休職中に傷病手当金を受給できれば、途中で退職しても最大で1年半(過去に健康保険料を1年以上払っていることなどが条件)もらい続けることができる。その間に仕事を探したり、心身を休ませたりすることが可能だ。

いったん傷病手当金を申請してから、労災の休業補償給付を申請するという手もある。認定のハードルはかなり高いが、労災認定がなされれば、退職後も元の賃金の8割が支給されることになる。また、労災認定は、会社に対して損害賠償を請求するための重要な根拠になる。

健康保険の傷病手当金や労災の休業補償給付は、休職をせずに退職してしまうと受けられなくなる。「もう会社とは一切関わりたくない」という気持ちもわかるが、得られたはずのものが得られなくなってしまうことは、ぜひ知っておいてほしい。