自分や身近な人がハラスメントを受けた際、突然のことに驚いてショックを受けてしまい、冷静な対応ができない場合があります。しかし、泣き寝入りだけはしたくない……では、自分の身を守りながら、加害者へ適切に復讐するにはどうすればいいのでしょうか。ハラスメント対策専門家の坂倉昇平氏が著書『大人のいじめ』(講談社)より、「職場いじめ」に遭った際にとるべき行動と避けるべき行動を紹介します。
職場で「セクハラ」「パワハラ」を受けた→“SNSで暴露”や“退職”は悪手…自分を守りながら相手に罰を与える“とっておきの復讐”【ハラスメント専門家の助言】
SNSへの投稿は危険
証拠の効果は、会社にちゃんと調査をさせるというだけではない。会社に相談して、適切に対応されなかった場合にも使いみちがある。「公表」である。ハラスメント被害に対して、会社の対応が適切であったかどうかを、社会に問う手段としても活用できるのだ。
具体的には、証拠をマスメディアに提供したり、インターネット上に投稿したりという方法がある。適切なタイミングで公表すれば、社会的に大きな反響があり、会社側の対応が噓のように変わることもある。
ただ、注意が必要だ。最近、ハラスメント被害を本人が個人でSNSに投稿し、「炎上」するケースがある。このとき、投稿した被害者が法的リスクに晒される可能性もある。実際に、業務妨害、名誉毀損での損害賠償請求、威力業務妨害罪、強要罪などで刑事告訴すると脅された事例もある。また、いくら加害者だからといっても、相手の個人情報の公表は慎重になった方がよい。
こうした危険もあるので、安易な「公表」はお勧めしない。社外の労働問題の専門家とよく相談してからにした方が良いだろう。労働組合の場合は、団体行動権という権利によって、こうした宣伝活動が法的に認められている。社会運動として、被害を発信して事件を問題化するというのは、有効な手段の1つである。
ハラスメント以外の証拠も集めておこう
証拠を集めてほしいのは、ハラスメントに関するものだけではない。それ以外の労働問題についても、できるだけ証拠を残しておこう。長時間労働や残業代未払いを示すための、タイムカードやパソコンのログ記録などである。
このような提案をすると、「私が問題にしたいのは、あくまでハラスメントだけです」「ほかのことは我慢できるので大丈夫です」とハラスメントだけにこだわる相談者もいる。その気持ちはわかるが、広範な証拠集めを推奨するのには理由がある。
第1に、ハラスメントについて会社に適切な対応をさせるのは、証拠があってもハードルが高い。会社が腰の引けた対応をしたときに、弁護士や労働組合を通じて、他の労働問題も一緒に問題化するという方法がある。この場合、問題の数々をまとめて「解決」するために会社がハラスメント対応を改めるケースがそれなりにあるからだ。
実際に筆者が関わった事件だが、長時間労働で発生した残業代を全く払っていなかった会社で、セクシュアル・ハラスメントの被害があった。
加害者は「記憶にない」という回答に終始し、セクハラの証拠は全く集まっていなかったのだが、長時間労働および残業代未払いの問題に対する告発に恐れをなした会社側が、予想以上に丁寧な聞き取り調査を行い(それくらい真面目にできるなら最初から被害を防止してほしかったが)、セクハラがあったと認めざるを得ないとして、謝罪や補償、再発防止策を行ったケースがある。
第2に、被害者にとっても、自分の受けたハラスメントがどのような環境のもとで起きたのか、理解するきっかけになる。当初は加害者個人への怒りだけだったとしても、適切に対応しようとしない経営者の醜態を目の当たりにしたり、過酷な労働環境を客観的に見つめ直したりしていくなかで、ハラスメントを起こさせる職場の構造に気付くようになる。
その構造を把握し、労働条件を改善させていくことで、完全に元には戻らないにしても、心の傷を和らげることにつながる場合もあるのだ。
ハラスメントにしても、それ以外の労働問題にしても、証拠を集めるのは、個人では難しいところもある。また、会社や上司に相談してからでは、加害者が警戒して、証拠を取るチャンスを逃してしまう。まずは、社外の労働相談窓口に相談することをお勧めする。