薬を服用するも、残業100時間で状態悪化

運送会社で倉庫内作業に従事している正社員の男性Gさん。残業時間は通常で月60時間、繁忙期は100時間を超え、過労死ラインを上回っている。GさんはADHDであると診断されていて、ケアレスミスを何度も繰り返してしまう。特に、仕事が忙しくなるとミスが増え、それに伴って同僚からのハラスメントも激しくなった。

自分だけ仕事を押し付けられたり、孤立させられたりするのは序の口で、殴る、蹴る、怒鳴られるなどが常態化していた。同僚に胸ぐらをつかまれていさかいになったときも、上司は大事にしたくないらしく、うやむやにされてしまった。

すでに上司の一部にはADHDであることを伝えているが、知らない従業員はもちろん、知っている上司ですら平気でいじめに加担してきた。思い切って現場のトップである所長に相談しても、取り合ってもらえなかった。

実はGさんはこれまでも職場でトラブルに巻き込まれることが多く、何度も解雇されてきた。そのなかで、今の仕事が1番長く続いていた。数年前に、なぜ職場でうまくいかないのかわからず、精神的につらくなり、心療内科を受診したところ、ADHDが発覚したという。

医師からは、発達障害は治らないので、自覚して、自分で居場所を作っていくしかないと助言され、2〜3ヵ月に1回、通院して薬を服用している。しかし、過労死ラインを超える長時間労働では、状態を維持することもままならない。転職できない不安から、なんとか職場にとどまっている。

残業代を請求したら「お前はADHD」

最後に、ADHDという概念が、その特性とは無関係に、会社に従順に従わない労働者に対するレッテルとして使われている例を紹介しよう。

アルバイトとしてコンビニに勤務しているHさん。残業代が全く支払われないことに違和感を覚え、店長に尋ねたところ、次のような罵声が返ってきた。

「お前はADHDかなにかの発達障害だから。新人より仕事ができないし、周りのサポートがなければ何もできないことを自覚しなさい。それで残業代を寄越せなんておかしいぞ」

その後、Hさんは他の社員から、店長の「お前は雇えない」という「解雇通告」を伝えられた。それでも、出勤しようと店に行ってみると、入っていたはずのシフトが修正液で消され、別の人のシフトに書き換えられていた。

これ以降、Hさんは、日常的に小さいミスをするたびに店長の発言がフラッシュバックするようになってしまった。自分は実際に発達障害なのではないかと不安になり、気分が落ち込んで苦しんでいるという。