それでも納得できない長男の嫁に残された“奥の手”

こうした現状を受け、平成30(2018)年7月、被相続人の介護や看病に貢献をした親族には「特別寄与料」として金銭請求権が認められるようになりました

これにより、相続の対象者が「被相続人の親族」にまで広がったことで、“無償の貢献”に対する公平性が図られることになったといえます。

ただし、介護や看病に貢献したときに金銭請求権が認められるのは“一定の範囲の親族”です。介護による特別寄与が認められる親族とは、下記の範囲の人を指します。

・被相続人の6親等以内の血族

・被相続人の3親等以内の姻族

「血族」とは、自分の親や子ども、兄弟姉妹などの“直接血のつながりのある親族”です。この場合には、6親等まで特別寄与料が認められます。

Aさんは直接血のつながりがないため、「姻族」にあたり、姻族の場合は3親等まで特別寄与料が認められます。つまり、Aさんは1親等の姻族に該当するため「介護による特別寄与料の金銭請求権」が認められるというわけです。

一方、“事実婚の妻”の場合は法律上「親族」ではないため、どんなに献身的に介護をしても特別寄与料の請求はできません。

“長男の嫁”に遺産を渡したいなら「生前対策」が必須

両親の立場として、お世話になった実子の配偶者に「遺産」を渡したいと考えた場合、主に下記のような方法があります。

1.遺言書

2.生命保険

1.遺言書

遺言内容は法定相続に優先するため、被相続人(今回のケースでいう「義父」)が、あらかじめ亡くなる前に「自分の財産を誰に、どのように遺したいか」を遺言書の形で意思表示することで、法定相続人以外にもしっかりと遺産を渡すことができます。

ただし、遺言書は民法所定の方式に従っていなければ無効となるため注意が必要です。

2.生命保険

次に「生命保険」です。生命保険であれば死亡保険金の受取人を自由に設定できます。

また、死亡保険金は原則遺産に含まれないため、他の相続人に死亡保険金の一部を渡す必要がなく、遺産分割協議に参加する必要もありません。

死亡保険金を利用すると、財産を渡すことができるだけでなく、遺産相続トラブルを避けることにもつながります。

そのほか、養子縁組や生前贈与といった方法もありますが、これまで説明した方法はいずれも被相続人が生前に対策しておかなければなりません。

ここまで説明を受けたAさんは、渋々ながら自身の置かれた現状を理解した様子。「遺産を受け取るには、お義父さんがあらかじめ対策をとっておく必要があったってことですね。なるほど……」とつぶやき、肩を落として帰られました。