司法統計によると、家庭裁判所に申し立てられた令和4年の事件総数は114万7,682件と、相続に関するトラブルは後を絶ちません。特に、義父母の介護を担うことが多い“長男の嫁”は、法律上不利な立場にあるようで……。FP Office株式会社の工藤由美子FPが、具体的な事例をもとに解説します。
あんたは他人なんだから…4年間の介護の末に義父を看取った57歳“長男の嫁”、海外から一時帰国した義姉の「心ないひと言」に悔し涙→誰よりも激昂した“意外な人物”に拍手喝采【FPの助言】
“長男の嫁”に遺産相続権がない理由
AさんはFP事務所に着くと、これまでの一連について話したあと、次のように訴えました。
「義父の介護をしていたのは私ですが、遺産をもらう権利がないということでしょうか?」
それを聞いたFPは、渋い顔をしながらこう告げます。
「なるほど。それはお辛かったですね。しかし、残念ながらAさんのように義父母を献身的に介護していた場合であっても、相続人の配偶者であるAさんには法律上、義父の遺産を相続する権利はありません」
義父母を介護する義務はないが…
そもそも法律上、相続人の配偶者が義理の親を介護しなければいけないという義務はありません。これは、嫁は子どもの配偶者であり、「姻族」(婚姻によってできた親戚)に分類されるためです※。
※ ただし、民法第752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められているため、夫が義理の両親の介護で困っている場合には、“協力”して妻がその介護を手伝う必要はあるかもしれません。
しかし、厚生労働省の調査によると、同居している家族が介護を行う場合が全体の46%で、そのうち「配偶者」が23%となっています。そのため、今回のケースのような場合、実際には同居している人が介護を求められる傾向が高いという現状があります。
このように、実際には“長男の嫁”が義父母を献身的に介護しているケースが多いため、義父や義母が亡くなったときには当然、自身も遺産相続できるものだと思ってしまいがちです。
しかし、先述のように、相続人の配偶者には遺産相続権が認められていません。つまり、今回のAさんのように、献身的に義父母の面倒をみてきた場合であっても、法律上遺産を手に入れるのは義父とほとんど関わりのなかった親族(Cさん)ということになってしまうのです。
相続人の配偶者としてはとうてい納得できないでしょうが、実際にこうした相続トラブルは少なくありません。