スーパーや飲食店で時々見かける、客が大声で店員を怒鳴りつける「カスハラ」の光景。大石ミツルさん(仮名・67歳)もかつては経理部長としてバリバリ働いていましたが、スーパーで悪態をつく「カスハラ老害」に変貌してしまいます。その背景にはなにがあったのでしょうか。FPの山﨑裕佳子氏が、事例をもとにミツルさんの家計改善策について解説します。
「俺を誰だと思ってるんだ!」…年金月33万円・退職金2,000万円で平穏な老後を送るはずが、スーパーを荒らす〈カスハラ老人〉へと変貌。67歳・元経理部長の老後崩壊の発端となった「年金機構からの通知」【FPの助言】
FPに相談した結果、「毎月0.5万円の赤字」であることが判明
「元妻からの申立てで、年金が減ってしまいました。腹立たしい気持ちもありますが、恥ずかしながら、毎月どれだけお金を使っているかわかっておらず……すいませんが、書き出してもらえませんでしょうか」。
勇気を出して相談すると、FPはこういいました。「わかりました。一緒に頑張りましょう。まずはなににいくら使っているのか把握するために、家計簿をつけてみましょうか。家計簿といっても、1日の終わりにその日のレシートを分けて、エクセルに転記するだけです。経理部長だったそうですから、お仕事に比べれば簡単ですよ」。それを聞いてミツルさんは俄然やる気が出てきました。
家計簿の起算日は年金支給日の15日とし、食費、日用品費、その他の3種類に分けて記載していきます。この方法を3ヵ月続けた結果、支出の内訳が見えてきました。
<ミツルさんの支出>
家賃:14万円
食費:5万円
水道光熱費・通信費:1.5万円
日用品費:0.5万円
税金・社会保険料:3万円
合計……24万円
23.5万円の年金収入に対して、支出額が24万円と、毎月0.5万円の赤字です。不足分は預金を取り崩し、自動的に補填していたようです。“自動的”というのは、預金口座と年金振り込み口座が同一であるために、支出が年金額を上回っていても、気がつきにくい環境にあったようです。
この結果を見て、FPはミツルさんに、家計改善策として次のように提案しました。
FP「今後、医療や介護にお金がかかることも考えられるため、預金はいざというときのために確保して、なるべく手をつけないことをおすすめします。そのためにも、「預金口座」と「年金振込口座」を区別して管理するといいでしょう。また、収入の範囲で生活することを心がけたいところです。
また、赤字家計からの脱出ポイントは、次の3つです」。
1.支出を減らす(主に固定費の見直し)
2.手持ち資金を働かせる(資産運用)
3.働いて収入を増やす
ミツルさんが見直すべき固定費の大部分は家賃です。FPは引っ越しを検討するよう勧めましたが、ミツルさん自身は現在の住まいを気に入っているため、できれば避けたいと考えています。
また、ミツルさんにこれまで投資の経験はなく、「よくわからないまま投資をして老後資産の目減りが加速してしまうようでは本末転倒だ」と、いったん保留することにしました。
そうなると、残る選択肢は、「働いて収入を増やす」ことです。高齢者の就業率は年々上昇しており、内閣府の「令和6年版高齢者白書」によると、令和5年時点での65歳~69歳の就業状況は、男性では6割を超えていることがわかっています。
仮に、東京都の最低賃金で試算すると、「1日5時間・週に2~3日」働けば、月5万円以上の収入を得ることができます。年金にプラスして5万円の収入があれば、これまでどおりの生活が維持できるでしょう。
「亭主関白」「カスハラ老害」から一転、第2の人生を歩み始めたミツルさん
幸いにして、ミツルさんはいまのところいたって健康です。そこで、節約生活よりも、新たな勤務先を見つけて収入を増やす選択をとることにしました。
「いやあ、正直寂しかったんで、新たな職場と聞くと気分が上がりますね。ゴルフ仲間も見つかるかもしれない」。テンションが上がるミツルさんに、FPは優しく釘を刺しました。
FP「ただ、新しい職場では過去の肩書きも栄光も通用しませんよ。そのことを肝に銘じて、地道にお仕事探しされることをおすすめします」。
「でも、人生これからですよ。頑張ってください」。FPに励まされ、ミツルさんは心機一転、第2の人生を歩み始めました。
<参考・出典>
・日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割(3号分割)」
(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-03.html)
・内閣府「令和6年版高齢社会白書」
(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s2s_01.pdf)
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表