65歳の定年まで“順風満帆”な人生を歩んでいた元経理部長

大石ミツルさん(仮名・67歳)は現役時代、大手金属メーカーの経理部長として働いていました。同じ会社に42年間勤め上げ、65歳で定年退職。勤務最終日の挨拶を終え、部下から盛大に見送られたときには、その感慨深さに思わず目頭が熱くなりました。

これまでの人生は、“順風満帆”だったといっていいでしょう。難関国立大学を卒業し、同世代と比較して収入も高く、社内の出世コースに乗るのも早かったそうです。

一方で、いわゆる“外面がいい”タイプのミツルさんは、家庭では相当な亭主関白でした。家事や育児はすべて、専業主婦の妻イクコさん(仮名・65歳)が担当。夫婦には子どもが2人いますが、ミツルさんが学校行事に参加したのは数えるほどしかありませんでした。

子どもの世話よりも、接待のためのゴルフ場通いを優先してきたミツルさん。それでも、「生活費も教育費も住宅ローンも、俺が全部自分の稼ぎで賄ってきた。俺が家族に迷惑をかけたことはない」と、自身の生き方に誇りを持っていました。

イクコさんは、若いころはこうした夫の態度に反発することもありましたが、いつまでも変わらないミツルさんに、いつしか意見することもなくなっていました。

ある日、妻から突然突きつけられた「三行半」

定年後も、変わらずかつての同僚らと出かけるなど、自由な日々を過ごしていたミツルさんでしたが、数ヵ月もすると、時間を持て余すようになります。

昼下がり、リビングでイクコさんが用意したお茶を飲みながら、ミツルさんはいいました。

「なあ、退職金でどこか旅行にでも行くか? ヨーロッパなんかどうだ?」イクコさんの顔が一瞬こわばりますが、ミツルさんは気がつきません。「それとも、国内のほうがいいか?」

すると、イクコさんは質問には答えず、意を決したようにタンスの引き出しから書類を取り出すと、ミツルさんに差し出しました。

離婚してください。お願いします」。