大手企業などで働いている場合、比較的まとまった退職金を受け取れるケースがあります。退職金の使い道については、銀行などから「助言」に見せかけた勧誘を受けることも多いですが、こういった誘いを鵜呑みにすると取り返しのつかない事態に陥る可能性があると、ファイナンシャルプランナーである辻本剛士氏はいいます。今回は、定年を迎えたばかりの60歳男性の事例をもとに、退職金にまつわる「悲劇」と回避策についてみていきましょう。
「月収64万円」「退職金2,300万円」で人生最高潮の60歳・元会社員、退職祝いの温泉旅行で愛する妻が豹変…暗雲漂うリタイヤ生活にトドメを刺す、銀行からの「一通の封書」【FPの助言】
一括投資はキケン…高橋夫婦に悲劇が起こった「3つ」の原因
今回、伸樹さんに悲劇が起こった原因は、主に下記の3つだと考えられます。
1.セミナー講師の助言を鵜呑みにした
セミナー講師は銀行や特定の金融機関に雇用されている場合が多く、完全に中立的な立場であるとは限りません。そのため、自社に有利な商品を優先的に勧める可能性があります。
今回伸樹さんが惹かれた講師も、銀行が提供する外貨預金を推奨する立場から、「高金利で運用収益が期待できる」というメリットを強調しただけでなく、為替リスクや元本割れの可能性といった重要なデメリットの説明が不十分だった可能性があります。
2.退職金を一括投資した
退職金を一括投資したことも、今回の悲劇を招いた大きな要因の1つです。伸樹さんは、2,300万円もの金額を一度に外貨預金に回しましたが、このような「一括投資」には大きなリスクが伴います。特に、外貨預金のように為替相場に大きく左右される金融商品では、購入した直後に為替の急激な変動や市場の暴落が起きると、資産が大幅に目減りしてしまうリスクがあります。
また、まとまった金額を一度に投資すると、少しの値動きでも資産全体の変動幅が大きくなり、精神的なストレスも増大します。今回のケースでも、残高が目減りしていく状況に耐えられず、途中で解約するという選択に至ってしまいました。
3.資金の大半を高金利通貨に集中させたこと
高金利通貨とは、政策金利が高い国の通貨のことです。具体的には、主に以下のような通貨を指します。
・メキシコペソ
・トルコリラ
・南アフリカランド
・ブラジルレアル
高金利通貨を扱う外貨預金は、金利収入(利息)が大きい点が魅力ですが、同時に為替リスクがともないます。ひとたび政治不安や経済危機が発生すると、通貨価値が大幅に下落する可能性があります。特にトルコリラなどは、過去10年間で大幅な下落を続けているため要注意です。
そのため、いくら金利が高くても、為替差損が発生すると、金利収入以上の損失を被る可能性があります。もし、“セカンドオピニオン”として別のFPなどに相談していれば、このような事態は免れたかもしれません。
人生100年時代といわれるなか、退職後の資産運用は必要な選択肢の1つといえます。しかし、資産運用には元本保証がなく、市場状況や為替の変動によっては大きく元本を減らしてしまうリスクもあります。そのため、退職金のように生活を支える重要な資金を運用に回す際には、家族の理解を得て運用計画を立てることが重要です。
[参照]
※ SBI証券「指数・為替・金利>トルコリラ/円」
(https://www.sbisec.co.jp/ETGate/?_ControlID=WPLETmgR001Control&_PageID=WPLETmgR001Mdtl20&_DataStoreID=DSWPLETmgR001Control&_ActionID=DefaultAID&burl=iris_indexDetail&cat1=market&cat2=index&dir=tl1-idxdtl%7Ctl2-TRYJPY%3DX%7Ctl5-jpn&file=index.html&getFlg=)
辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー