定年を迎え、2,300万円の退職金を受け取った高橋さん

高橋伸樹さん(仮名・60歳)は、大手上場企業の営業職として長年会社に貢献してきました。年収は770万円(月64万円)と安定した収入を得ていた一方で、高橋さんの生活は、常に忙しさとの戦いでした。

休日も出張や会食、得意先とのゴルフと、仕事中心の暮らし。家族との時間をとることは難しく、妻の貴子さん(仮名・60歳)にはいつも大きな負担をかけていました。しかし、明るい性格の貴子さんは、「いつも予定が入ってるわね~」と不満を口にすることはあったものの、最終的には温かく伸樹さんを送り出してくれました。専業主婦として家庭を支え続けてきた貴子さんの存在は、伸樹さんにとってかけがえのないものでした。

そんな伸樹さんは、このたび60歳となり、定年を迎えることに。38年間の勤続を経て、退職金は2,300万円。これまで家族のために働き続けてきた伸樹さんにとって、この金額は“努力の結晶”といえるものでした。

夫婦水入らずの旅行先で起こった、“まさかの修羅場”

退職日の1週間後、伸樹さんは妻とともに温泉旅行に出かけました。夫婦で前々から「退職したら行こう」と約束していた、念願の旅です。宿に到着した2人は、広々とした露天風呂でゆっくりと体を癒し、長年の疲れを洗い流します。温泉を楽しんだあとは、旅館自慢の鍋料理を堪能。日本酒を傾けながら、夫婦水入らずの会話が弾みます。

「お父さん、長らくお勤め本当にご苦労様でした。これからは思う存分のんびりしてくださいね」。「ありがとう。貴子の支えがあったからこそ、ここまで頑張れたよ」。互いにねぎらい、感謝の気持ちを伝え、2人は幸せな時間を満喫していました。

やがて、食事が進むなか、話題は自然と退職金の話に移ります。「退職金、いくらぐらいもらったの?」と貴子さんが尋ねると、伸樹さんはさらりと答えました。「う~んとね、2,300万円くらいかな」。その額を聞いた貴子さんは、驚きが隠せません。

「えっ! ほんとに!? いやぁお父さん、本当にすごいわね……」感嘆する貴子さん。

「そんな大金、何に使いましょうねえ。美味しいものもたくさん食べられそうだし、こういう旅行もたくさん行けそうね」。夢を膨らませる妻に、伸樹さんが返したひと言が和やかな空気を一変させます。

実は、もう使い道は決めていてね。退職金は全額、資産運用に回している」。

貴子さんは箸を置き、静かな声で聞き返しました。「ちょっとそれ、どういうこと?」

「いや、こないだ銀行に行ったときに勧められてね。外貨預金で運用すれば、高金利で利息もたくさんもらえるって話だったんだよ」。