(※写真はイメージです/PIXTA)

患者様がいつ訪れても大丈夫なよう、診療時間内は門戸が開かれているクリニック。内部では、会計処理のために多額の現金が取り扱われ、スタッフは圧倒的に女性が多数…。このような特徴から、クリニックは一般の事業所よりも犯罪の標的になりやすいといえます。ここでは、クリニック経営者における防犯意識の重要性について、一般社団法人日本防犯学校学長で、防犯ジャーナリストの梅本正行氏が解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

クリニックは犯罪の標的になりやすい

クリニックを営んでいる先生方は、研究熱心でホスピタリティに富む方が多いのですが、防犯意識については、率直な話、決して高いとはいえません。多くの先生方は、犯罪被害について、どこか他人事のように考えておられるようで、犯罪被害を受けてから、防犯の重要性に初めて気づく、というのが、残念ながらよくあるパターンなのです。

 

私たちは、防犯意識を高めるための講習会などを日々行っていますが、そこで「予知防犯」という言葉を使って犯罪を防ぐ手段や対策について説明しています。予知防犯に努めるなら、クリニックのスタッフ全員で定期的にミーティングを行い、緊急時の対応のパターンや、万一の場合の避難経路の決定など、具体的な行動を決め、情報共有する必要があります。

 

クリニックの診療時間の間、先生方は診察室にこもりきりで、実際の運営はスタッフの手に委ねられているケースがほとんどだといえます。そのため、院長ひとりが防犯について考え、対策を講じているだけではダメなのです。

 

クリニックは多額の現金を取り扱う場所であり、スタッフも女性が圧倒的多数です。そのような特徴から、一般企業よりもはるかに犯罪の標的になりやすいといえます。

 

近年の警察の対応は極めて迅速で、110番から4~5分、場合によっては2~3分で駆けつけてくれます。しかし、それだけ短時間でも、その間、犯罪者の行動を抑止しなければなりません。犯罪者に立ち向かうなど、女性スタッフにはとても無理な話で、男性の医師であっても対抗できるほど腕が立つ方はまずいないでしょう。

 

犯罪抑止の観点から申し上げるなら、さまざまな防犯設備を整えたうえで、さらに外から見える場所に男性スタッフを常駐させて存在を周知させるなど、犯罪者が付け込む隙を見せない対応も、大切なポイントとなります。

多くのクリニックが失念している緊急時の「避難経路」

私たちの目から見た場合、クリニックの建物にも大きな懸念があります。それは、ほとんどのクリニックが緊急時に避難できる構造になっていない、という点です。

 

2021年、大阪のあるクリニックで起きた放火事件では、多くの死亡者が出てしまいました。受付近辺で火を放たれ、建物の奥に向かった人たちは逃げ場を失い、命を落としてしまったのです。

 

もしこれからクリニックを建築するのであれば、万一のときの避難経路についても計画に練りこんでいただきたいと、切に願います。

防犯性の高い建築部品「CP建材」とは

警備会社のシステムも、導入イコール万全、とはいえません。犯罪者のなかには、特定の警備会社の仕組みを熟知していて、あえて特定の会社が警備する建物を狙う者もいます。

 

警備会社のシステムは基本的に、カメラやセンサーを活用したものになりますが、それにプラス、簡単に割れない防犯ガラス、簡単に壊せないドア、簡単にめくれないシャッターなども取り扱いがあります。それらは防犯性の高い建物部品、「CP(Crime Prevention)建材」といいます。

 

もしこれからクリニックを建築するのであれば、間違いなくCP建材を使う必要があるでしょう。

 

そしてクリニックの内部にも、防犯のために導入すべきシステムがあります。緊急非常通報装置です。これは、クリニック内の受付、カウンター、診察室のデスク、そして、受付の下、カウンターの下、診察室のデスクの下に設置します。

 

これは非常に大きな音が鳴り響き、クリニックの外でも鳴る仕組みとなっています。大きな音を鳴らすだけでなく、警備会社等に通報が行くようにもできます。

 

大きな音が犯罪抑止につながったケースは枚挙にいとまがありません。窃盗犯や強盗も、そばで大きな音が鳴り響けば、犯罪行為をやめて逃げて行くケースが多いです。この通報装置は今後必ず必要になると思われますが、最近ではワイヤレスタイプ、時計タイプ、首からペンダント状に下げられるタイプもあり、送信機も兼ねています。

 

だれかがこれを押すと、事務所内のコントローラーがキャッチし、大きな音を鳴らして通報する、このシステムの設置も強く推奨します。

診療時間終了間際の「初見の患者」には要注意

最後に、日々クリニックで診療をされている先生へのアドバイスをお伝えします。

 

“診療時間終了間際に訪れた、初診の患者”には十分注意を払ってください。患者を装った犯罪者が、このようなパターンでクリニックに入り込むケースがあるのです。すべての患者が帰ったあとを見計らい、強盗にひょう変するかもしれませんし、複数の仲間を招き入れる案内役かもしれません。

 

これについても、クリニックのスタッフ内で対応を決めておき「診療時間終了間際に訪れた、初見の患者」がいる場合には、すぐにスタッフ間で情報共有し、さりげなく様子を見守りつつ、少しでも怪しいと思った場合は速やかに院長や事務長に報告するなど、具体的な対応を決めておきましょう。

 

 

梅本 正行
一般社団法人日本防犯学校学長・防犯ジャーナリスト