「毒親」という言葉が世間に広まり、親との関係を見つめ直す機会も増えてきたなか、自分の中に眠っていたわだかまりに気づくケースも少なくありません。今まで明かされなかった親子関係を科学的に捉え、その仕組みを紐解いていきましょう。中野信子氏による著書『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』(ポプラ社)より、詳しく解説します。
娘の幸せを“許せない”「毒親」たち…テストで100点を取っても褒めない母親の“身勝手すぎる心理”【脳科学者が解説】
「これはおかしい」…母の心理に気づいた30代
彼女はその後、東京大学に進学しました。年齢の割に冷めた子どもだったと自身で言うだけあって「母はこういう人なんだ」と自分を納得させていたようです。一種独特な雰囲気があり、ドライだと評する人もいますが、一方で、過剰に他人に気を遣うようなところもあります。母のことはそれほど自分の性格に影響を及ぼしてはいない、と言ってはいるけれど、どこか他者に対して一歩引くようなところや、信頼できる人を求めているのかな、と思えるような寂しげなところが見え隠れするような感じもあります。
母親と彼女の間の大きな問題は、やはり結婚相手を探すときに顕在化しました。彼女がどんな相手を連れて行っても否定されてしまう。最初はなぜ反対されるのかよくわからず、付き合う相手をそのたびに親に紹介していたそうですが、30歳を過ぎたあたりでこれはおかしい、と思い、「これは母がもう一回自分の人生をやり直したいのかもしれない」と思うようになったそうです。
ご両親は彼女が物心ついた頃からめったに口もきかないほど不仲で、父親は母親を殴る人だったといいます。彼女が中学生の時にご両親は離婚していて、たしかに幸せな結婚だとは言えなかったようですが、その失敗を娘に「繰り返させたくないのか、それとも自分よりも娘に幸せになってほしくない」のか、彼女にはよくわからず、悩んだようでした。いえ、本当はわかっていて、言葉にしたくないだけなのかもしれません。
彼氏があまり途切れたことのない人ですが、40代になる今でも結婚していません。未婚の人が増えているといわれていますが、母の意思を優先するあまり結婚できないという人は意外と多いのではないかと思います。彼女は、どこの馬の骨ともわからない男性よりも、本当は母親に愛されたいのかもしれません。
中野 信子
医学博士/脳科学者/認知科学者