老後の生活のため、夫婦で70歳まで年金の繰下げ受給をすることを選択した60代の共働き夫婦、金田さん(仮名)。しかし、65歳を迎えた矢先、夫が逝去。悲しみのなか、年金事務所に訪れた妻は、今後受け取れる年金について、思いがけない事実を目の当たりにします。いったい何が起きたのでしょうか? ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、遺族年金において見落とされがちな「落とし穴」について解説します。
年金夫婦で「月28万円」もらえるはずが…同い年の夫を亡くした65歳・共働き妻、年金事務所の窓口で告げられた〈衝撃の遺族年金額〉に絶望「こんな仕打ち、ありますか?」【FPの助言】
遺族年金の概要
遺族年金は配偶者などの遺族に支給される年金で、主に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」に分かれます。以下でそれぞれの特徴をみていきます。
遺族基礎年金
遺族基礎年金は、遺族に18歳未満の子どもがいる場合に支給される年金です。遺族年金の受給額は子どもの人数によって異なり、2024年時点の受給額は以下のとおりです。
816,000円+子どもの加算額23万4,800円
子ども2人目:加算額23万4,800円
子ども3人目以降:加算額7万8,300円
例えば、夫が亡くなり18歳未満の子どもが2人いる妻の場合、基本額は81万6,000円、子ども1人目が23万4,800円、子ども2人目が23万4,800円で合計128万5,600円を受給できます。
遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金加入者または加入していた人が亡くなった際に遺族に支給される年金です。
65歳以上で老齢厚生年金の受給権がある人が、配偶者の死亡によって遺族厚生年金を受け取る場合の計算方法は以下の通りです。
・死亡した配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4
・「自身の老齢厚生年金の1/2」と「亡くなった配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額の2/3」の合算額
上記の2つの金額を比較し、どちらか高いほうが遺族厚生年金の支給額となります。
今回の金田さん夫婦に当てはめてみると、夫の老齢厚生年金は33万円、妻の老齢厚生年金は55万円となり、計算式に当てはめてみます。
【死亡した配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4】
35万円×3/4=26万2,500円
【「自身の老齢厚生年金の1/2」と「亡くなった配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額の2/3」】
55万円×1/2+35万円3/4×2/3=45万円
26万2,500円<45万円
よって、45万円が遺族厚生年金の支給額となります。
しかし、実際に金田さんが受給できる遺族厚生年金は「45万円から、妻の老齢厚生年金額55万円を差し引いた金額」です。つまり、差し引きゼロとなるため、妻のまりさんは遺族厚生年金は受給できないことになります。
遺族年金は誰でも受給できる制度ではない
幸いにも、金田さんは65歳以降もこれまでの職場で正社員並みの収入を得ながら働き続けることが可能です。そのため、年金分を老後のために貯蓄する余裕があります。しかし、もしこれが65歳以降に働く場が確保できていない場合や、パートタイムなどで十分な収入が期待できなかった場合は、大変な状況に陥っていたかもしれません。
年金制度は非常に複雑で、配偶者が亡くなった際に「当然遺族年金がもらえる」と勘違いしている人も少なくありません。しかし、今回のように制度の仕組みによる「落とし穴」が存在します。
老後の生活に入る前に、一度ファイナンシャルプランナーなどお金の専門家に相談し、自分の年金制度について適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
[参照]
・日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
・日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー