老後の生活のため、夫婦で70歳まで年金の繰下げ受給をすることを選択した60代の共働き夫婦、金田さん(仮名)。しかし、65歳を迎えた矢先、夫が逝去。悲しみのなか、年金事務所に訪れた妻は、今後受け取れる年金について、思いがけない事実を目の当たりにします。いったい何が起きたのでしょうか? ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、遺族年金において見落とされがちな「落とし穴」について解説します。
年金夫婦で「月28万円」もらえるはずが…同い年の夫を亡くした65歳・共働き妻、年金事務所の窓口で告げられた〈衝撃の遺族年金額〉に絶望「こんな仕打ち、ありますか?」【FPの助言】
繰下げ受給を選択したのも束の間、突然の悲劇が襲う
繰下げ受給を選択したのも束の間、金田さん夫婦に突然の悲劇が訪れます。70歳までお互いに仕事を頑張り、繰下げ受給を目指していた矢先、夫の誠さんが大動脈解離で急死してしまったのです。
つい昨日まで笑顔で会話を交わしていた夫が突然帰らぬ人となり、金田さんは深い悲しみに暮れ、放心状態に陥ります。それでも金田さんは何とか気持ちを奮い立たせ、葬儀を無事に執り行いました。しかし、その後も悲しみのなかで多くの手続きに追われる日々が続きます。
しばらくして、金田さんは相続手続きと並行して、年金事務所を訪れます。遺族年金の手続きや、今後自分が受け取れる年金額について相談するためでした。
年金事務所から告げられた「衝撃の事実」
金田さんは年金事務所に到着後、案内された相談コーナーの担当者に今後の年金受給額について確認します。
「このたび夫が亡くなり、これから遺族年金を受給することになると思います。遺族年金について、今後の具体的な受給額など詳しく教えていただきたいです」
すると、担当職員は答えにくそうな表情を浮かべながらこう告げます。「確認したところ、残念ですが金田さんには遺族年金は支給されません。まり様の具体的な年金受給額は老齢基礎年金が年間75万円、老齢厚生年金が年間55万円の合わせて年間130万円(月換算で約10万8,000円)となります」
金田さんは一瞬耳を疑いました。そして「一体どういうことでしょうか? 夫は長年きちんと年金を納めており、遺族年金を受け取れる条件は満たしているはずです」と反論します。
職員は丁寧に質問に答えます。「確かに金田さんは遺族年金を受け取れる権利はあります。しかし、遺族厚生年金と金田さまの老齢厚生年金の受給権がある場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止されるのです。この場合ですと、金田さんの老齢厚生年金の額が遺族厚生年金よりも多いため、遺族年金は支給されません」
さらに職員は続けます。「一方の遺族基礎年金については、原則、18歳未満の子がいる世帯が対象となるため、そもそも受給の対象外となります」
この事実を知った金田さんは「そんな……遺族年金が受け取れないなんて……」と戸惑いました。
遺族年金の受給権が発生すると繰下げ受給ができない
納得がいかない金田さんですが、現実を受け入れるしかないと思い直し、職員にこう尋ねました。「それでは、繰下げ受給をして年金額を増やすほうが得策ですね」
しかし、職員は慎重にこう答えます。「遺族厚生年金の受給権が発生すると、繰下げ受給を選択することはできなくなります。それがたとえ遺族厚生年金を受給できなかったとしてもです」
その言葉を聞いた金田さんは一瞬あっけにとられ、思わずつぶやきました。「信じられない……遺族年金も受け取れないうえに、繰下げ受給もできないなんて」
まるで八方塞がりのような状況に、金田さんは深くため息をつきます。そして、「これから私は月11万円で生活していかなければならないのね……。40年以上必死に働いてきて、老後にこんな仕打ちが待っているとは思わなかったわ……」と、絶望感に打ちひしがれたのです。