「お母さんの介護をできるのは私しかいない」。49歳で会社を退職した明美さん(仮名)は、そう決意して介護の道を選びました。十分な貯金があり、母への恩返しのつもりでした。しかし5年が経過した今、預貯金は底をつき、再就職の道も厳しい現実に直面しています。果たして明美さんに他の選択肢はなかったのでしょうか。今回は明美さんの事例を通して、介護離職についてFPの三原由紀氏が解説します。
娘だもの、面倒見てくれるわよね?…75歳母の言葉で介護に身を投じた貯金3,000万円“心優しきエリート娘”が数年後、破綻の影に脅えパート探しに「私の人生こんなはずでは」【FPの助言】
介護と仕事の両立のためにやるべきこと
では、明美さんはどうすれば良かったのでしょうか?
まず、完全離職ではなく、介護に関わる制度を活用し、段階的な介護体制作りを行っていくべきでした。勤務先独自の、かつ、公的な制度への知識は外せません。以下に主な制度、やるべきことを挙げておきます。
1. 親の資産の把握
原則として、介護は親の資産からの充当を優先します。
年金の受給額や預貯金額、不動産資産、加入している保険、また借金の内容を確認しましょう。特に認知症が進むと意思判断能力が衰え、資産の凍結リスクもあるため家族信託など事前の対策が重要です。
2. 勤務先の介護支援制度の活用
要介護認定を受けた家族を介護するため、介護休暇や介護休業の取得や給付金をもらうことができます。これらは公的制度ですから、要件を満たせば利用できる権利です。他にも勤務先独自の支援制度についても調べておきましょう。
3. 公的介護保険サービスを最大活用
デイサービスやショートステイを積極的に利用し介護の負担を分散、また、ケアマネージャーと密に相談し状況変化に応じ利用可能なサービスを把握する、などの介護体制を整えることが重要です。
介護の初期段階から、地域包括支援センターや介護の専門家に相談することで、より良い選択肢が見つかる可能性があります。離職は最終手段と考え、収入を確保しながら介護と向き合う方法を模索することが重要です。
介護は長期戦。子である介護者自身の人生とキャリアを守りながら、持続可能な介護プランを立てることが、結果的には親のためにもなるのです。
三原 由紀
プレ定年専門FP®