「お母さんの介護をできるのは私しかいない」。49歳で会社を退職した明美さん(仮名)は、そう決意して介護の道を選びました。十分な貯金があり、母への恩返しのつもりでした。しかし5年が経過した今、預貯金は底をつき、再就職の道も厳しい現実に直面しています。果たして明美さんに他の選択肢はなかったのでしょうか。今回は明美さんの事例を通して、介護離職についてFPの三原由紀氏が解説します。
娘だもの、面倒見てくれるわよね?…75歳母の言葉で介護に身を投じた貯金3,000万円“心優しきエリート娘”が数年後、破綻の影に脅えパート探しに「私の人生こんなはずでは」【FPの助言】
増える"仕事人間"の介護離職、待ち受ける厳しい現実
在宅介護は施設よりお金はかからないと言いますが、訪問看護に訪問介護、通所リハビリ、福祉用具のレンタルなど毎月の利用サービスへの自己負担は9万円ほど、明美さん自身の国民年金と国民健康保険料の支出も加わり、貯金は年間300万円以上のペースで減少していきました。
また、同居するにあたり1,000万円ほどかけて実家のリフォームを行いました。さらに、介護のストレス解消を言い訳にテレビ通販に走ってしまったことも家計悪化の要因となりました。このままでは、あと6年ほどで貯蓄が底をつきます。
もし、母が亡くなって母の年金も途絶えたら、自分の少ない年金(月12万円ほど)でどうやって暮らしていけばいいのか。明美さんは短時間のパートを探す羽目に追い込まれていきました。
実は、明美さんのケースは、決して特殊なものではありません。厚生労働省の調査によれば、2022年に約7.3万人が介護や看護を理由に離職していることが示されています。その約6割以上が女性であり、40代後半から倍増、キャリア途中での離職が目立ちます。
特に深刻なのは、2025年に迫る超高齢社会の到来です。団塊の世代が75歳以上となり、介護需要が急増する「2025年問題」を前に、介護離職者数はさらに増加すると予測されています。
介護離職には、給与収入が絶たれるだけでなく、将来の年金受給額の減少、再就職の困難さなど、長期的な影響が伴います。明美さんの場合、定年まで勤め上げれば老後の厚生年金は年額50万円以上増額されたはずです。また、5年の空白期間は再就職への障壁となり、離職前の年収の半分以下になる可能性も十分あり得ます。
常勤で働きたくても、短時間勤務のパートなど働き方と収入が限定されてしまうことも。「あの時に親友の助言をもっと真剣に聞いていたら……」後悔しても、失った時間を取り戻すことはできません。