空気中の窒素を利用した新しい肥料の製造技術「プラズマグリーン農業」
ここで紹介するのは、持続可能な農業への新しいアプローチである「プラズマグリーン農業技術」という画期的な肥料製造の技術について。現在国内で使用される農業用肥料は、ほぼ全てを海外に依存している深刻な状況に陥っています。
今後予想される世界人口の増加や食糧不足に並んで肥料原料の不足が表面化し、農業分野において深刻な影響を及ぼすと言われています。この課題を解決すべく、福岡県福岡市に本社を置く農業・園芸のイノベーションカンパニーであるwelzoと九州大学による共同研究がはじまっています。
具体的には、九州大学大学院システム情報科学研究院 プラズマナノ界面工学センターの古閑一憲教授による“プラズマ技術”を応用することで、国産でありながら、環境にやさしいクリーンな肥料製造が可能になるというもの。プラズマとは、固体、液体、気体にならぶ「物質の第4の状態」のこと。
私たちの身の回りから宇宙に至るまでさまざまなところに存在していて、蛍光灯や半導体製造技術、人工衛星のエンジンなどに活用されています。プラズマの中では室温程度で化学反応を高い活性で起こすことができるため、空気中でプラズマを発生させることで、空気を原料にした窒素肥料を製造することが可能になるのです。
また両者は2022年より、少子高齢化による農業従事者の減少や安定的な食糧確保などの課題解決に向けて、労働力軽減と安定的な供給を可能にするスマート農業として、「キュウリの自動栽培システム」の開発を進めています。
福岡市西区にあるwelzo研究農場では現在3つのハウス内でキュウリの実験栽培を実施。換気や日照のコントロール、水やりや施肥、暖房機やCO2発生機の稼働などを可能な限り自動化させることで、作業者1人で1日100キロ(千本)の生産が可能となっています。
今後はこの環境制御技術を施設園芸全般の作物を対象として活用することを目指し、実証実験が進められています。
農産物の安定的な生産はもちろんのこと、これからの時代において農業従事者が無理なく生産活動を行えるための研究開発は本格的に進んでいます。そして農産物栽培における多くの工程をAIに託す時代はもう目の前に……。
小規模農家の多い日本において、これらの技術がどう浸透普及していくか、今後もしっかり注目していくべき分野であることは間違いないでしょう。
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<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。