2024年10月上旬、福岡・博多で開催されたあるイベントに参加をしてまいりました。その主旨は、「日本のサツマイモの大ピンチを救え!」というもの。えっ、いつも食べているサツマイモに何か問題が起こっているの? と当初は疑問でいっぱいでしたが、実態を調べていくとその状況は深刻であることがわかりました。実は今、サツマイモの一大産地である鹿児島・宮崎を中心にサツマイモ特有の病気「基腐病(もとぐされびょう)」が蔓延しており、関わる産業が大打撃を受けているというのです。そこで今回は、サツマイモの一大産地である南九州を基点として2023年に発足したプロジェクト「Save the Sweet Potato」を取り上げ、最新の取り組みや開発・研究内容をご紹介。合わせて現代の農業課題を解決するために、九州を中心に産学連携で推進されている農業技術の最新事例をお届けしていきたいと思います。
サツマイモの危機を救え!九州の農業課題を解決する最新イノベーション事例 「Save the Sweet Potato」代表、株式会社welzoの後藤基文さん(提供:welzo)

 ※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

サツマイモの大ピンチを救うために発足した「Save the Sweet Potato」

サツマイモ畑の様子(提供:welzo)
サツマイモ畑の様子(提供:welzo)

 

日本におけるサツマイモの生産量は1位が鹿児島県、4位が宮崎であり、九州のサツマイモの半分は焼酎の原料です。つまり基腐病蔓延によって大打撃をくらっているサツマイモ産業の中で特に影響が大きいのが、サツマイモを原料にして製造されるイモ焼酎ということに。

 

最も影響を受けた2021年には焼酎用サツマイモの生産量の47%が失われ、300億円もの市場が失われたそう。この事態を解決するためには、何よりも基腐病を克服し、サツマイモ自体の生産量を増やす取り組みが重要となります。

 

対策の一つとしてはじまったのが、DNA解析によって基腐病のかかりやすさを診断する土壌分析。

 

サツマイモ基腐病は土壌や植物のなかに潜伏していて発症するまでに時間がかかり、その原因となる基腐病の菌はDNA分析をしても検出しにくいという特徴があります。

 

この問題に対して、京都大学発のベンチャー企業であるサンリット・シードリングス株式会社は、その病原菌だけを分析するのではなく、さまざまな微生物の出現頻度を計算することによって、その土壌がどのような微生物環境(ネットワーク)にあるのかを分析・診断するという手法を確立。これは、サツマイモ基腐病の病原菌そのものを見るのではなく、その土壌全体を俯瞰して環境分析するということになります。

 

鹿児島県で採取した土壌微生物の培養株コレクション(提供:サンリット・シードリングス)
鹿児島県で採取した土壌微生物の培養株コレクション(提供:サンリット・シードリングス)

 

実際に鹿児島県内の圃場調査では、この分析と合わせて生産者の方へのアンケート調査を実施。「この圃場には有害なネットワークがあり、有用なネットワークがない。ということは基腐病が発生する可能性が高い」という判断ができるようになり、非常に高い精度で発病リスクを判定することが可能になってきたと言います。

 

現時点では実証実験段階であるものの、今後は土壌の簡易診断キットの提供や、有用微生物の資材化による土壌改良のアプローチによって、基腐病を含めた病害予防の実用化が期待されています。

 

現在九州のみならず日本の農業が抱えている課題は年々深刻化。高齢化や後継者不足による耕作放棄地の増加や経営問題、農産物の効率的な生産や安定供給、価格変動への対策など、早急に解決していく課題が山積み状態になっています。そこでここからは、今回のサツマイモをきっかけとして、九州において進みつつある農業技術研究の最新事例をご紹介します。