まだまだある…滞納のリスク

③年金減額のリスク

もし年金受給権が得られたとしても、未納期間に応じ年金額が減ってしまいます。令和6年度の老齢基礎年金額は、満額でも月額68,000円です。未納期間が長ければ長いほど、この額が減額されます。

国民年金の保険料納付期間は20歳から60歳までの40年間です。仮に10年間の未納期間があると年金額は4分の3に、20年間の未納期間があると年金額は半分になります。

令和6年度の老齢基礎年金額は816,000円(月額68,000円)なので、10年間の未納で612,000円(月額51,000円)、20年間の未納で408,000円(月額34,000円)となる計算です。

自営業で定年がないとはいえ、いつまでも元気に働けるとは限りません。老後生活に困窮しないよう、老後に受け取れる年金は1円でも多いほうがよいでしょう。社労士は付加年金や任意加入制度などを説明しました。余裕があれば国民年金基金や小規模企業共済への加入も考えたいものです。

④障害年金をもらえないリスク

公的年金は、老後に備えるためだけの制度ではありません。普段はあまり意識することがないでしょうが、障害に備えた保険でもあるのです。

もちろん、障害年金にも保険料納付要件があります。障害基礎年金を受給するには、初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間等が3分の2以上あることが必要です。

ただし、初診日が令和8年4月1日前にあるときは、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。

「初診日の前日」で判定するのは、初診日に慌てて保険料を納めてもダメだということです。せめて直近1年間でも保険料の未納が無ければ特例として保険料納付要件を満たすとされますが、保険料を納めていなかったにも関わらず、障害年金をもらおうとして初診日に保険料を納めた場合まではさすがに救わないということです。

保険料を滞納することのリスクは老齢になったときだけではなく、障害を負ったときにもあることに注意しましょう。

⑤遺族年金をもらえないリスク

今回の田中さんの場合には当てはまりませんが、公的年金は死亡リスクにも備えた保険です。

遺族年金にも保険料納付要件があり、遺族が遺族基礎年金を受給するには、死亡日の前日において、保険料納付済期間等が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。

ただし、死亡日が令和8年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。

年金保険料の未納についてあまりに軽く考えていた田中さん。社労士の説明を聞き、様々なリスクがあることを痛感しました。

そして何より、今後の生活を考えるうえで、お金以上に大切なのが妻の存在です。ひとりで過ごす老後など想像できません。年金を払わないことで妻を失う危機に陥るとは思ってもみませんでした。田中さんは何とかやりくりをしてお金を集め、急いで未納分を納めました。

角村 俊一
角村FP社労士事務所代表・CFP