矢野豊さん(62歳・仮名)は都内のメーカーに勤務するサラリーマン。ワーカーホリックを自他ともに認めるほどの仕事好きで、60歳定年後も再雇用でバリバリ働いていました。しかし転倒して1週間も入院するなど、最近では体力の衰えが顕著で、会社からも「無理をするな」と言われてしまいます。これからの年金生活について真剣に考え始めた矢野さん。しかしそのあまりの現実に、70歳まで年金受給を繰り下げる選択とも悩んでいます。本記事では、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・CFPの角村俊一氏が、矢野さんの事例を解説します。
再雇用後も年収500万円の62歳元モーレツ会社員、70歳から月25万円もらう気マンマンだったが…年金大幅ダウンも〈年金繰下げ〉を断念した妻からのひと言【社労士の助言】
「昔みたいにもっと働かせてくれよ!」と思う一方、時折体力の衰えも感じて…
矢野豊さん(62歳・仮名)は都内のメーカーに勤務するサラリーマン。ワーカーホリックを自他ともに認めるほどの仕事好きで、60歳定年後も再雇用でバリバリ働いています。残業や休日出勤、遠方への出張も厭わず、年収は500万円超え。
長年にわたり仕事に情熱を注いできた豊さんは長時間働くことに慣れています。しかし、勤務先でも働き方改革が進み、残業や休日出勤が徐々に制限されてきました。「昔みたいにもっと働かせてくれよ!」と強く思う一方で、時折、体力の衰えを感じることも。
数週間前には、会議に出ようと急いでいたところ足がもつれて階段を踏み外し転倒、右足首を負傷して1週間ほど入院生活を送る羽目になりました。最近は特に体力の衰えが顕著で、会社からはもう無理するなといわれ、意気消沈しています。
20歳のときにスキー場で出会った妻と二人三脚で築いてきた生活も、老後のことを考えると不安が募ります。また、子供たちは独立し、それぞれの人生を歩んでいるものの、いつまでも自分たちが支える存在でありたいと思っています。
年金額を知り「これだけか……」
まだまだ働くことが当たり前だと思っている豊さん。あまり年金については気にしていませんでした。しかし、歳を取ればケガや病気でいつ働けなくなるか分かりません。
そこで自分の年金額を調べたところ、原則通りに65歳から受け取る場合、月18万円(年間216万円)ほどの金額になることが分かりました。現在の収入の半分以下です。「長年働いてきたのに、これだけか……」とため息が出ます。
しかし、70歳まで年金受給を繰り下げることで、月約25万円(年間約306万円)に増えると聞き、受給開始年齢の選択に悩み始めます。勤務先では70歳までの再雇用制度が新たに始まったので、繰下げ受給する場合は70歳まで働くつもりです。
「仕事、年金、健康。老後は一体どうすれば?」と苦悩する豊さん
豊さんはとても家族想いです。家族の将来を心配するあまり、自分の健康や生活について考える時間を持たずにいました。そんな中、仕事中にケガをして入院する事態となりショックを隠し切れません。また、最近体調を崩した友人の話も気になります。
友人は65歳で年金を受け取ることを選び、安定した収入を得ることで心の余裕を持っているとのことでした。豊さんは友人の姿を見て、「自分も同じ道を選ぶべきか?」と心が揺れます。
家族と話し合う中で妻からは、「今までさんざん無理して働いてきたでしょ。私だって年金を月に5万円くらいはもらえるんだし、無理をしてまで働かなくても、健康を考えたら65歳から受け取ったほうが安心じゃない? 私はあなたとゆっくり過ごしたい」と言われ、さらに迷いが深まります。
豊さん自身の健康や妻との時間を考えれば65歳から受け取る選択が無難に思えますが、70歳まで待てば受け取る年金が大幅に増えることが決断を鈍らせます。
しかし、もし繰下げ受給を選んで経済的な安心感が増したとしても、70歳まで働き続けることで体にさらなる負担がかかることに一抹の不安がよぎります。