日本のフードテックは進化の方向に向かっていますが、海外と比べると実際どの程度なのでしょうか? 私はそのリアルを確かめるために、7月にイギリスを訪れました。多文化が共生するイギリスがコロナ禍を経てどのような変化を遂げているのかが気になったのです。ここでは街中やホテル、レストランなど、国内にすでに浸透し、当たり前の選択肢として確かな存在感を発揮している食分野の先進事例を3つご紹介。それらを支える英国フードテックの実行性の高さをイメージしながら、今後の日本に求められる課題について考えるきっかけにしていただければ幸いです。
現地に行ったら見えてきた…イギリス社会に浸透しているフードテック、食シーンの最新事例3つ (※写真はイメージです/PIXTA)

③ホテルにおけるサステナビリティ推進の実行力(フードロス削減、アップサイクル)

英国で最も歴史あるラグジュアリーホテル「TheSAVOY」(著者撮影)
英国で最も歴史あるラグジュアリーホテル「TheSAVOY」(著者撮影)
 

イギリスの老舗ホテル「TheSavoy(以下、サヴォイ)」を訪れて実感したのは、サステナビリティに対する実行力の高さです。ホテルにおけるサステナビリティ事例と言えば、環境に配慮したアメニティ、清掃の省力化、プラスチック削減などが主流ですが、サヴォイにおいては食シーンにおける実践例が印象的でした。

 

具体的な食シーンにおける実行例は次の通り。日系ホテルと比較した場合、サービス開発や提供の流れの中に一貫したシステムが確立されており、それらを明確に公言している点において明らかな先進性を発見することができます。

 

  • テーブルウォーターは、レストラン内のテーブルウォーター・ボトリングプラントで調製。
  • ホテルにおける電力消費量、水の消費量を測定。定期的に分析することでさらなる節約に努めている。
  • レストランではホテル内のハーブ農園で採れたハーブをはじめ、地元産の持続可能性の高い旬の食材を積極的に使用し、廃棄食品は再生エネルギー用にリサイクルしている。
  • トラファルガー広場のカナダハウス屋上にハチの巣箱を寄付、都市養蜂の促進をサポートしている。
  • ワインのコルクは、地元の小学校でクラフト材料として活用することで、リサイクルを実現。作品をチャリティ活動の一環として販売している。

 

これらを継続的に推進できているのは、顧客の目には見えにくいシステムやテクノロジーのおかげといって過言ではありません。食品ロス削減、アップサイクル分野において実行例が公言されつつ、それらの強化・拡充を実現させるための連携企業の競争が活発化していることがうかがえました。

 

日系ホテルにおけるサステナビリティに「企業の社会的責任」という要素が強く感じられる一方で、英国ホテルにおいてはサービスの見えにくい部分にまで戦略的に自然に組み込まれていることに、次元の違いを感じたことは間違いありません。

欧米のフードテックの躍進から考える日本の未来は?

今回はテクノロジーの実用化によって社会に浸透している事例をお伝えしました。

 

日本のフードテックの未来を考えた場合、国や企業が揺るがないミッションやコンセプトの強化し、戦略を具体化していくことは、今後の課題にもなってくるでしょう。今後も欧米におけるフードテックの躍進については、リアルでの展開も含めて注目していければと思います。

 

 

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[プロフィール]

スギアカツキ

食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。