建築会社との「密な話し合い」なしには始まらない
医師が独立開業を目指し、自身のクリニックをオープンするときには、付き合いのある医療関係業者がさまざまなアドバイスを行っているケースが多く見られます。クリニックの設計も内装も、医療関係業者が医師をサポートしつつイニシアチブを取り、複数の設計会社から見積もりを取るパターンがよくあります。
逆にいうと、大学病院や総合病院の勤務医が独立するにあたって、自分の力だけで一から物件を探してクリニックを立ち上げる、というケースはあまりありません。
独立開業を決めた医師は、建築会社の担当者と打ち合わせを行い、診察室やスタッフの動線、インテリアの希望などのおおまかな要望を出すことになります。それを元に建築士がプランを描き、見積もりを出すのが最初のステップです。
ここで重要なのは、なんといっても建築会社としっかりと話し合いを重ねることです。見積もりを検討する際は、どうしても金額が重視されがちですが、自身の希望についてしっかり話しつつ、先方の認識も都度確認しておかないと、希望の仕上がりにはなりません。
たとえば、内科といっても、呼吸器内科や消化器内科など、いろいろな専門科があります。医師は、専門分野における自身の強みや、患者様へのPR等も、打ち合わせでしっかりと伝えることで、クリニックのコンセプトを明確にすることができます。
クリニック内のレイアウトが、必要な機器を考慮したものになっているかどうかも重要です。クリニックにはパソコンはもちろん、レントゲン、CTといった診察に使う機器のほか、電子カルテ、オンライン診察や予約・決済のための機器もあります。
しかし、どの機器を入れるか・入れないかによって、クリニック内のレイアウトは変わります。そもそもスペースには限りがありますし、あとから「やっぱりこの機器を入れたい」と思っても、導入をあきらめざるをえなかったり、無理に配置しても、そのせいで患者様やスタッフの動線に影響が出てしまったりすることもあります。そのため、導入すべき機器はよく精査したうえ、将来的な導入の可能性も踏まえ、打ち合わせを重ねることが大切です。
患者様の数は? 付き添いは? スタッフの動線は?…確認事項は多岐にわたる
医師と建築会社それぞれが思い描く「イメージの齟齬」についても注意が必要です。
たとえば医師が「広い待合室がほしい」と希望を伝えても、あいまいな表現では、どの程度の面積をいっているのか、設計の担当者にはわかりません。何人ぐらいの患者様にお待ちいただくことを想定しているのかを具体的に伝えなければ、希望のレイアウトは作れないのです。
また、付き添いされる方が多いクリニックと、そうではないクリニックでも必要な広さは異なりますし、立地条件や患者様の年齢層によっても変わってくるため、そのあたりも明確に伝えていく必要があるでしょう。
患者様の動線も注意が必要です。たとえば、内科はトイレでの採尿があるので、トイレの配置には配慮と工夫が必要です。また、患者様の尿を取りに行くスタッフの方のバックヤードの動線も確保しなければなりません。
どれぐらいの患者様が来て、どのように動くのか、そして何人ぐらいのスタッフの方がいて、どのように動くのか。建築前にその点をしっかり伝え、双方の認識のズレを埋めることが大切です。
導入する機器を考え、レイアウトと予算を計画する
そしてなにより、予算の問題があります。当初の予算から大きくオーバーするケースはとても多く、その理由のひとつに、上述した、付き合いのある医療関係業者からのアドバイスがあります。医師は医療関係業者の担当者から「この機器が必要ですよ」などと勧められると、すぐに導入を決めてしまいがちです。
医療機器はひとつひとつが数百万円以上と高額ですから、勧められるままに購入すれば、あっという間に予算オーバーになってしまいます。そのことから、最初はできるだけミニマムな状態でスタートし、患者様が増えてきたら少しずつ機器も増やしていく、という方法がお勧めです。そのためクリニックのレイアウトも、あとから機器を入れることまで織り込んだものにしておくことが大切です。
もちろん、順調に集患できれば問題はないのですが、現実はそう甘くありません。診療圏調査で「70人の患者さんが来ます」という予想が出ても、実際は数人しか来ない…といったケースはしばしばあり、そうなれば、すぐさま資金繰りがショートしてしまいます。そんな状況は、ぜひとも回避しなければなりません。
クリニックの開業にあたっては、理想とするクリニックのイメージを、建築会社・設計担当者と密にコミュニケーションを取って共有し、実現を目指すことが大切なのです。
株式会社Metal Design 一級建築士事務所