業績不振などによって、割増退職金を提示して早期退職者を募集するケースは少なくありません。退職金が大きく上乗せになると聞いて、「このタイミングで辞めてしまおうか」と考えることもあるでしょう。しかし、後先考えずに早期退職をすると、その先に大きな後悔が待っているかもしれません。本記事では、早期退職に踏み切った年収1,200万円・元エリート会社員の木村武さん(54歳・仮名)を例に、早期退職で注意すべきポイントについて、南真理FPが解説します。
もう疲れたよ…。仕事の重責に耐えかねた54歳エリートサラリーマンが「早期退職すれば3,000万円」の募集に飛びついた結果、半年で大後悔したワケ【FPの助言】
早期退職をする場合におさえておくべきポイント(FPの助言)
では、早期退職するなら、木村さんはどうするべきだったのでしょうか。FPは木村さんに再就職活動のサポートや、お金の使い方に関するアドバイスを行い、将来設計の見直しを提案しました。
①そのままリタイアするのか再就職するのか、退職前に明確にしておく
木村さんのように勢いに任せて早期退職し、「その後のことは追々考える」というのは危険です。体調の問題などで絶対に辞めるしか選択肢がないのであれば別ですが、前述の通り金銭的な問題もありますし、努力して得たポジションは、一度辞めてしまえば二度と手に入りません。
50代で早期退職してそのまま完全リタイアを考えるのであれば、本当に家計に問題がないのか、より一層きちんと計算する必要があります。また、少し休んで再就職をするのであれば、その時期を決め、あらかじめ転職サイトに登録しておくなど、退職する前に準備をしておくことをおすすめします。
ちなみに、50代の転職事情はどうなっているのでしょうか。厚生労働省が公表している「令和5年 雇用動向の調査結果の概要」によると、50歳から54歳で男性5.6%・女性9%、55歳から59歳で男性6.6%・女性7.6%となっており、決して高くはありません。さらに就業形態は、一般労働者よりパート勤務が多くなっています。
その人の経歴などによって一概にはいえませんが、50代は20~30代の若手社員と比べて人件費が高くなり、体力的な面でも生産性が低いと思われる傾向にあります。一度会社を辞めてしまうと、どれだけキャリアがあっても年収が下がってしまうということもめずらしくはありません。
② 退職を決める前に、家計の収支をシミュレーションしておく
何事も事前準備をするに越したことはありません。まして、早期退職という大きな決断をするときには、家計の収入が大きく変わるため、家計の収支の把握はマストです。
お金は人生の目的ではありませんが、お金がなければ生活できないし、ライフイベントを実現することもできなくなってしまいます。あらかじめ収入がいくらあれば生活が成り立つのかをシミュレーションしたうえで、行動するほうが安心でしょう。
木村さんのように退職金が3,000万円。貯金も1,000万円あると、「これだけ資産があれば」と余裕を持ってしまうのも理解できます。しかし支出のペースが変わらなければ、手元のお金は驚くほど速く減っていきます。大きな金額に惑わされず、きちんと計算することが大切です。
当たり前の話ではありますが、収入がなくなる、もしくは、減るのであれば、その前に支出を見直すべきでしょう。一般的には、保険料や通信費といった毎月確実にかかる固定費から見直しをしていきます。
さらに、木村さんの場合には、外食を減らす、美容代や被服費を見直すなど、暮らしをコンパクトにする努力が必要になります。現在のままの生活では60歳で資金が尽きますが、見直しをすることでそれを先延ばしにすることも可能です。
③ 公的年金が入るまでは働くのが基本
木村さんは、早期退職するという選択をしました。しかし、特別な事情がない限りは、公的年金が入る65歳までは働き続けて収入を得るほうがいいでしょう。なぜなら、貯蓄の取り崩しを減らすことができ、老後の備えをより多く残しておくことができるからです。
投資をして増やせばいいと思われる方もいるかもしれませんが、余裕資金がなければ叶いませんし、必ず増えるという保証はどこにもありません。やはり毎月の収入があることは家計の安定はもちろん、精神的な安定にも繋がります。
仮に、木村さんが退職後、負担の少ない会社に再就職して年収300万円で働いたとすると、65歳までに得られる収入は手取り約2,400万円。一方、支出は約4,600万円です。差し引きすると、貯蓄の取り崩しは、約2,200万円となります。
54歳時の退職金とそれまでの貯蓄で約3,500万円ありますので、65歳時での貯蓄は約1,300万円となります。ここからも収入があることがどれだけ大切なことであるか、お分かりいただけるでしょう。