「水道メーターによる空き家の把握」と「見守りサービス」…意外なものがセンサーに
今、日本ではどのようなスマートシティの取り組みが始まっているのでしょうか。『スマートシティ・ガイドブック第2版』(内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省スマートシティ官民連携プラットフォーム事務局、2023年8月)は各地の事例を紹介しています。
自動運転バスやドローンを使った山小屋への配送といった、わかりやすく未来感を感じさせる取り組みもありますが、前述したデータ連携、情報処理、仮想空間・現実空間の融合という視点から見た典型的な事例を2つご紹介しましょう。
一つはさいたま市の「水道メーターによる空き家の把握」。1年以上契約のない水道メーターが存在する建物を空き家と判断し、デジタル地図上にその分布状況をマッピングするという仕組みです。自治体は住民登録データや住所データを持っていますが、実際にその住所に人が住んでいないことはよくある話です。
新型コロナウイルスの流行初期、日本政府は全国民にガーゼ・マスクを配布しましたが、その手法は全戸配布、人が住んでいる家も住んでいない家もお構いなしに、すべての郵便受けにマスクを入れるというものでした。なんとも粗っぽくムダが多い手法に思えますが、住民を正確に把握する手段がなかったため仕方がありませんでした。複数のメーターがリアルな居住データが得られれば、町作りやインフラ整備、防犯対策、あるいはビジネス応用などさまざまな活用が期待できます。
もう一つは兵庫県加古川市の「見守りサービス」です。子どもや認知症の高齢者に見守りタグを配り、行方不明になったときは捜索できるというサービスです。何がユニークなのかというと、見守りタグの移動記録を捕捉する検知機は固定式の機器だけではないという点です。スマートフォンに専用アプリをインストールしたボランティア・ユーザー、郵便車両、公用車なども検知器としての役割を果たします。
数ある事例の中からなぜこの二つをご紹介したのかというと、前者は水道メーターをセンサーとするもの、後者はボランティアや郵便車両、公用車をセンサーとしてデータを収集しているからです。仮想空間と現実空間の融合のためには、社会で起きた事象をセンサーによってデータにする必要があります。センサーといってもその形態はさまざまで、水道メーターであっても、あるいは誰かのスマートフォンであっても、その役割を果たせるわけです。
まだまだ先駆的な取り組みですが、将来的には「空き家と判断された場所は警官の巡回を増やす」「見守りタグを持った人が指定区域から離れた場合は行方不明と見なして保護者や警察に通報する」といった自動的な情報処理とフィードバックへと発展する余地があります。