ゲームのように行政を
そうした課題がある一方で、ともかくスマートシティのシステム、機能を完成させようと、中国はシャカリキになって邁進しています。私は昨年、建設中の副都心である雄安新区を訪問しましたが、印象的だったのは市の中心部に巨大なデータセンターが建設されていたことです。
雄安新区は全国の模範となる最先端の街作りを進めていますが、そのキモとなるのがスマートシティです。現実の街を建設するのと並行して、その街のあらゆるデータを収集してデジタル空間にコピーを作り出す、いわゆるデジタルツインを推進しているのです。
デジタルツインが実現すると、何が問題なのか、どのようにすれば解決できるのかが非常に明確になります。コンピュータの中に現実の街とそっくりそのままのデジタルコピーの街があるので、渋滞であれインフラの欠陥であれあるいは産業や商業施設の不足であれ、コンピュータの情報を見るだけで一目瞭然となります。
中国のITソリューション展示会では、こうした行政向けスマートシティ・システムが盛んに販売されています。
現実世界をコピーした都市の地図と映像がディスプレイに映し出され、ある地域の住民数や産業といった商業データ、あるいはビル火災が起きたときには現在取り残されている人数、付近の消防車の数などがリアルタイムで表示されます。
「シムシティ」という名作シミュレーションゲームがあります。プレイヤーはコンピュータの中に自分の街を作っていくのですが、電力不足や渋滞というインフラの問題、娯楽や病院が足りないという住民の不満などはすべて画面に表示されます。その不満を解消していけば、素人のゲームプレイヤーでも大都市を建設、運営することができるようになるという仕組みです。
街に住む多くの人々のさまざまな不満と課題を把握することは決して容易ではありません。選挙や世論調査、メディアの報道を通じてそうしたニーズを把握するのが現代の政治ですが、スマートシティが進展していけば、デジタル技術を使って街の隅々、人々の不満をシムシティのように都市行政の責任者が把握できるようになっていきます。それがスマートシティの最大のメリットと言えそうです。
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[プロフィール]
高口 康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福
な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。