私たちの生活に忍び寄る虫の影――。その被害は「世界食料総生産の15.6%が、害虫により食品ロスとなっている」ともいわれており、近年深刻化しています。また、害虫駆除の現場では化学農薬を使用した殺虫剤が一般的ですが、その環境負荷は高く、生態系や生物多様性への悪影響が懸念されています。そんななか、AIを駆使して環境負荷や利用者の労力・時間等の負担を軽減した、害虫と向き合う新たな取り組みが注目されています。本記事ではそんな害虫から社会を守るテクノロジーを紹介します。
飛び回る害虫をAIがレーザービームで迎撃!虫の脅威から社会を守るテクノロジー (※写真はイメージです/PIXTA)

 ※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

飛び回る害虫の位置をAIが予測してレーザービームで迎撃

はじめにご紹介するのは、飛び回る害虫の飛翔位置をAIが予測し、レーザービームで迎撃するシステムです。

 

国立研究開発法人である農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発しました。システムに使用される撮影装置「ステレオカメラ」は、3次元の空間情報が得られる特殊なもので、カメラを2台平行に並べた構造をしています。

 

まず、このステレオカメラが、不規則に飛び回る害虫を撮影して3次元的な計測を行います。こうして得られた飛行パターンをモデル化し、リアルタイムで得られる位置情報と組み合わせることで、ターゲットの害虫が次に移動するだろう飛行位置の予測を行います。算出された予測位置に向かって、高出力レーザーを照射し、害虫を駆除することができるという仕組みです。

(レーザービームで害虫駆除を行う仕組み/提供:農研機構)
(レーザービームで害虫駆除を行う仕組み/提供:農研機構)

 

このシステムの特筆すべき点は、飛翔する害虫の0.03秒後の位置を、AIがリアルタイムで予測できるところにあります。なぜなら、開発当初は、ターゲットを検知してからレーザー狙撃まで0.03秒程度のタイムラグが生じるため、その間に対象が移動してしまうのが問題でした。そこで、AIによる進路予測を組み合わせることで、ターゲットに向けたレーザー照射が可能になりました。

 

(レーザー狙撃による害虫駆除のイメージ/提供:農研機構)
(レーザー狙撃による害虫駆除のイメージ/提供:農研機構)