「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」(中央労働委員会)によると、令和4年度の定年退職者への平均退職金支給額は約1,878万円でした。退職金はまとまった金額が手元に入るタイミングですが、使い道を誤った結果、老後破産の危機に陥るケースも少なくありません。定年から1年後に“やらかしてしまった”元公務員Aさんの事例をもとに、詳しくみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
お父さんの年代がいちばん厄介なんだから…退職金2,500万円の61歳元公務員、年金受給前に欲をかいて大恥。頭によぎった元銀行員の娘の“ある忠告”【CFPの助言】
なんだ、簡単じゃないか…運用成績に“ご満悦”のAさんだったが
株式や投資信託といった金融商品に投資して運用すれば、預貯金よりも高いリターンが期待できますが、元本割れのおそれもあります。Aさんは、Dさんから投資の基本を丁寧に教えてもらいました。
【資産運用の基本】
①長期間投資する……運用して得た利益を再び投資して、利益が利益を生む複利効果で資産が増える
②決めた金額で投資する……あらかじめ決めた金額で継続的に投資することで、投資銘柄の値動きのリスクを軽減でき、購入価格を平均化できる
③分散投資をする……1つの銘柄にだけ投資するより、国内・海外の株式や債券など、値動きが異なる複数の銘柄に投資することで、価格の変動をある程度抑え、安定的な運用が目指せる
そしてAさんは、Dさんに勧められたNISA(少額投資非課税制度)の口座を開設して、「成長投資枠」で年間投資枠240万円分の投資信託(ファンド)を購入し、あわせて「つみたて投資枠」で成長投資枠とは別のファンドに、毎月10万円ずつ(年間投資枠120万円)積立てることにしました。
Aさんの運用状況は、投資のタイミングや相場環境の追い風もあり非常に好調で、約1ヵ月後でおよそ1%のプラスとなっていました。
「なんだ、簡単じゃないか。たった1ヵ月でこんなに増えるなんて……こんなことならもっと早くはじめれば良かった!」
成功体験を得たことで徐々に投資への興味が強まるなか、次第に「個別株にも投資したい」と考えるようになったAさん。早速Dさんへ相談したところ、「うちの銀行では個別株の投資ができないので、証券会社で口座を開設する必要があります。ただ、正直あまりお勧めできませんが……」との説明を受けました。
Dさんの話を聞いたAさんは、すぐに近くの国内大手証券会社の支店へ足を運び、口座を開設。今回開設した口座はNISAと違って非課税制度や投資額の上限はないと聞き、非課税枠がないことにはガッカリしつつも「その分稼げばいいか」と楽観的に考えていたそうです。
そんななか、悲劇は唐突に訪れます。8月2日と5日の国内株大暴落により、投資した銘柄が軒並み暴落してしまったのです。実は、NISAをあわせてすでに1,000万円近くつぎ込んでいたAさん。「完全にやらかした! 年金前にちょっと欲張ったせいで大切な老後資金が……娘のいうことを素直に聞いておけば」と大後悔。
慌ててDさんに相談したところ、「いまは我慢のときです。むしろここまでの大幅な下落はチャンスですよ!」との返答。証券会社の営業にも同じように言われ、さらに投資を勧めてくる始末です。
Aさんの感覚では、いざ自分のお金が100万円も減ると、特に、これまで全幅の信頼を寄せていたDさんのことも信用できません。とはいえ、散々忠告してくれていた娘には恥ずかしすぎて相談できない……悩んだAさんは、以前からの知り合いである筆者のもとを訪ねてきたのでした。