塩分を気にするあまり、塩分不足に陥ってしまう高齢の方も。体が欲していると考えよう

前項でも触れましたが、食べたいものを我慢している中高年や高齢の方は多いでしょう。食べる量を減らす、塩辛いものや甘いものを避ける、脂っこいものを控えるなどはよくあるケースです。世間的には(特にお太りの方の場合は)、「塩分、糖分、脂質」は三大害悪のように言われています。しかし、本当にそうなのでしょうか? 先述の通り「食べたい」と思うのは体が求めているとも考えられます。


特に高齢の方は臓器の働きが落ちるため、これが欲求を生んでいる可能性があるのです。例えば塩分ですが、人間はナトリウム(塩)がないと生きていけません。しかし、高齢者の腎臓は塩分を排出し、血中の塩分不足を起こすことがあるのです。


腎臓にはナトリウムを貯留する働きがあり、足りなければキープしようとします。ところが老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまうのです。この現象(低ナトリウム血症)によって、塩分不足になってしまい、体が塩分を欲するというわけです。


60代くらいまでは、たしかに塩分の摂り過ぎは、健康を損なう原因になるかもしれませんが、国際的に有名な医学雑誌に掲載された研究によると、1日10〜15グラムの塩分摂取が最も死亡率が低いことが明らかにされています。さらに高齢の方などは、一度世間の常識を忘れたほうがいいくらいです。


栄養不足は確実に老化を進めるからです。もちろん、無理に摂取する必要はありませんが、「食べたい」と思うなら、我慢せずに食べましょう。ちなみに、低ナトリウム血症は、意識障害や痙攣などを引き起こします。


普段は逆走や暴走をしない高齢ドライバーによる逆走事故や暴走事故などは、もしかすると低ナトリウム血症が原因で意識が飛んだのではないか。あるいは、血糖値や血圧を下げ過ぎて頭がぼーっとしてしまったなど、複数の原因が考えられそうです。

和田秀樹
医師