Aさん夫妻が想定していなかった「インフレ」や「金利上昇」などの影響
Aさん夫妻の話によると、今後お給料が大きく増えることはないとのこと。しかし、昨今のインフレで生活費が想定していた以上に上がり、変動金利で組んだ住宅ローンも今後上昇する可能性が高くなってきました(すでに一部の金融機関では変動金利の引き上げの公算が大きくなっています)。
加えて、住宅ローン減税期間中は実質的に負担感のなかった年15万円程の固定資産税も、優遇がなくなった今では負担になってきました。また、賃貸では必要なかった外壁塗装などの修繕費も必要です。さらに将来子どもが通うであろう大学の学費も、この10年で1割以上値上がりしています。
結局のところ、営業マンが言った「家賃並みの返済額で住める」ということはなかったわけです。マイホームを購入した時点で元々ゆとりがあるわけではないライフプランだったところにインフレなども重なり、Aさん夫妻は経済的に大変厳しい状況となりました。
「家を売って小さな家に買い替えるべきか。でも、小さい家ですら昔よりもずっと高くなっている。いったいどうしたらいいのか……」と途方に暮れているといいます。
住宅ローン以外にかかる関連費用として、固定資産税が年間約15万円、築後10数年程度(一般的には築後10年といわれていますが、実際には築後10数年後であることが大半です)が経過してから行う修繕関係費が約150万円。それだけで毎月に換算すると賃貸よりも約2万円ほど支払う費用が増加します。さらに住宅ローン金利が0.5%上昇すると毎月約1万円の返済増加となります。
先々を見通すと、その時点で「家賃並みの返済額」で持ち家を購入することは難しかったのです。なにより、インフレによって光熱費や食費、車、子どもの習い事など、すべての物やサービスの価格があがっています。加えて、10年以上前には普及してなかった米国テック系サービスのサブスク費用、通信費など、当時はなかった支出も相当増加しています。
当時は想定すらできなかったサブスク費用などはある程度仕方がないとしても、インフレの予測や住宅ローンの組み方、住宅購入金額、その他にかかる費用を把握し、しっかりとしたライフプランニングをすべきだったと思います。
「賃貸と同じ金額で買える」の誤算…ライフプランは入念に検討を
前述の通り、住宅ローン以外にかかる関連費用や金利上昇分を考慮すると、賃貸よりも3万円ほど余計にお金が必要です(このケースの例)。同じ変動金利0.75%でも物件価格が4,500万円の場合、毎月約12万円の返済額になります。それではじめて、「今の家賃並みの返済金額で購入できる」ことが実現できたということになります。
固定金利が1.8%だと毎月約14万円になることから、すべて固定金利にしなくても変動金利とミックスにすることでリスク分散が可能です。また実際に変動金利があがったとしても、繰り上げ返済の方法のひとつに「返済額軽減型」がありますので、ある程度余裕資金があれば金利上昇分を相殺することも可能です。
Aさん夫妻の事例でもわかるとおり、住宅を購入する際にはライフプランをしっかりと検討することが欠かせません。自身でライフプランのシミュレーションを作ることが難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
矢島 大資
矢島FPオフィス 代表
(株)REAM 代表取締役