人生で最大の買い物と呼ばれることもある「住宅の購入」。ほとんどの人が住宅ローンを利用することになりますが、ローンの組み方以外にも多くの落とし穴が潜んでいます。営業マンから「現在の家賃はおいくら程度ですか?」と訊かれ、家賃を答えると「今の家賃並みの返済月額で購入できますよ」と嬉しい返答。しかし、ここで安易に購入を決めてしまうと、後々自らの選択を悔いることに……。本稿では、営業マンが口にする「家賃並みの返済月額で購入できる」という言葉の真実について、FPの矢島大資氏が解説します。
世帯年収900万円・40代夫婦、戸建て購入から10年後“地獄のマイホーム生活”へ…誠実そうな営業マンの「家賃並みの返済額で買えますよ」を信じた末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

営業マンの「今の家賃並みの返済金額で買えますよ」という甘い言葉

介護関係のお仕事をされているAさん夫妻。ご主人と奥様は同い年で現在48歳、共働きで世帯年収は900万円ほどです。10年前、夫妻は比較的都市部にある家賃月15万円の賃貸マンションに長女と3人で暮らしていました。常々「いつかは家がほしいね」と話していた夫妻でしたが、次女が生まれて賃貸マンションが手狭になったのを機に、一戸建ての物件を探すことに。

 

いくつか物件を閲覧するなかで、少し郊外にはなるものの、ついに欲しいと思える新築の建売物件が出てきました。ただ、その新築物件の金額は5,500万円。大きな金額であるため、購入できるのかどうか悩んでいたところ、誠実そうで笑顔が印象的な営業マンから「持ち家は一生の財産になる」「今の家賃並みの返済金額で購入できますよ」といった言葉を聞き、心が躍りました。

 

加えて、(購入された当時は)「住宅ローン減税で10年間は毎年数十万円が還付される」とも言われ、「ひとまず住宅ローンの仮審査をしてみませんか」と同営業マンに提案されます。Aさん夫妻は「借入ができることがわかってから購入をしっかり考えればいいかな」という思いで銀行に審査を申し込みました。すると、変動金利であれば家賃並みの支払いで購入することができそうでした。

 

当時30代後半での住宅購入だったため、35年フルローンということに多少の不安はあったものの、元利均等返済方式、0.75%の金利だと毎月約14.8万円のローン支払額です。「今の家賃並みの返済金額で購入できる」ということもあり、将来のライフプランを詳しく検討しないまま、念願のマイホームを手に入れたのでした。

賃貸・持ち家にはそれぞれメリット・デメリットが。戸建ては「資産性」に注意

住宅を購入したAさん夫妻ですが、持ち家は資産としてよい選択だったのでしょうか。賃貸と持ち家にはそれぞれ、大きく分けると以下のようなメリット・デメリットがあります。

 

●賃貸のメリット

・住み替えが容易

●賃貸のデメリット

・いつまでも家賃を払い続けなくてはならない
・インフレになれば家賃が上昇する可能性がある

 

●持ち家のメリット

・住宅ローン完済後は自分の物(資産)になる
・(固定金利の場合は特に)毎月の支払額が固定されるためインフレヘッジになる
・入居後もリフォームなどは自由にできる

●持ち家のデメリット

・住み替えが簡単にできない
・毎月の返済額以外にも費用が必要

 

Aさん夫妻にとって、部屋が広く騒音の心配が少ない一戸建ては、周囲に気を遣うことも少なく快適そのものだったといいます。しかし一方で、資産性としてはどうでしょうか。自宅を担保とした将来の老後の資金調達手段として、リバースモーゲージやリースバックといった手段もありますが、主に評価されるのは土地価格です。

 

土地価格は一部の地域を除き、郊外型の一戸建ては将来的には供給過剰になる可能性があるといわれていますので、よほどの立地でない限り資産性として大きな期待をすることは難しいと考えられます(少子高齢化のなかで政府も空き家問題を取り上げているほど)。そうしたことからも資産性が低い場合のリスクについても考えなくてはいけません。つまり、「持ち家は一生の財産になる」という営業マンの言葉は、必ずしも正しいとはいえないわけです。

 

さらに、住み始めてから10年たった今、Aさん夫妻は想定外の費用に悩まされているといいます。