(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックを開業するための資金は、内科や整形外科など診療科目によって異なりますが、高額であることには変わりありません。数千万単位の資金を準備する必要があるため、具体的にどのような項目で費用が発生するのかを整理しておくことは重要です。クリニック開業時にかかる費用の項目を一つひとつ見ていきましょう。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

開業資金として必要な費用項目

クリニックを開業するためにはどのような準備に資金が必要なのでしょうか。

 

以下に、開業時に一般的にかかる費用の項目を取り上げてみます。

 

◆物件の初期費用

開業するクリニックが「戸建て」か「テナント」の違いによって、物件にかかる初期費用は大きく変わってきます。

 

戸建ての場合

自己所有の建物で開業する場合、土地と建物を新規に購入しなければなりません。

 

土地の価格は地域や立地条件によって異なり、数千万円から億単位の金額になることもあります。

 

建物を新築する際には、設計から施工までの工程や使用する部材などに応じて建築費用がかかります。

 

戸建ての利点は設計の自由度が高いことですが、建築費が上乗せされるため、一般的に初期費用は高くなります。

 

テナントの場合

ビルや医療モールなどのテナントとして物件を借りる場合、土地・建物の購入費用はかかりませんが、初期費用として保証金、仲介手数料、初月の賃料などが必要です。

 

一般的に、保証金は賃料の6~12ヵ月分、仲介手数料は賃料の1ヵ月分が目安となります。

 

賃料自体の支払いは契約直後から発生することが多く、内装工事期間中でも賃料を支払う必要がある可能性は念頭に置いておきましょう。

 

テナントは開業時のイニシャルコストを低く抑えられることが利点ですが、賃料や管理費、駐車場代などのランニングコストを想定しておくことが重要です。

 

◆内装工事費

内装工事費は、クリニック内部の設備や機能を整えるための費用です。

 

空調や照明、院内のサイン工事など、患者様の快適性と医療スタッフの効率性を考えると、開業の際には注力したいところです。

 

ただし、エックス線室や手術設備の有無によって、費用は大きく変動します。

 

一般的な内科や外科は坪単価70万円前後ですが、診療科ごとに必要となる設備に応じて、工事内容と費用が異なることを考慮する必要があります。

 

※ 2024年2月時点の相場感であり、今後、資材高騰等により大幅に変動する可能性も考えられます。

 

◆医療機器の導入費

診察や検査、治療に関する医療機器は、クリニック開業では欠かせません。

 

これには電子カルテや予約システムのほか、患者様の健康管理に必要な機器類も含まれます。

 

検査機器や治療機器は、診療科によって導入する費用に高低差がありますが、基本的に高額になるため予算を慎重に割り当てる必要があるでしょう。

 

◆診察室・待合室の設備費

医療スタッフが使用するパソコンやデスク・チェア、患者様が待ち時間をリラックスして過ごせるようなソファやテレビなどが当てはまります。

 

診察室と待合室の機能性、快適性を確保する上で重要な支出です。

 

◆備品・消耗品費

クリニック運営全般に必要となる備品・消耗品の購入費です。

 

文具、ティッシュといった事務用品や日用品、使い捨て清掃用品のほか、手袋、キャップ、ガーゼなどの医療用ディスポ製品などが含まれます。

 

備品と消耗品を経費として計上する際は、それぞれ会計処理が異なります。

 

◆人材採用・研修費

看護師や事務スタッフなど、クリニック運営に必要な人材を採用するための費用です。

 

医療従事者求人サイトへの掲載料や人材紹介会社への手数料などが該当します。

 

併せて、採用したスタッフの研修や教育にかかる費用も必要です。

 

患者ファーストのホスピタリティと医療スキルの向上に充てられます。

 

◆広告宣伝費

開業したことを広く知らしめ、クリニックの知名度アップや集患につなげるためにも欠かせない費用です。

 

WEB広告やホームページ作成、リーフレット制作、医療系ポータルサイトへの登録などが一例です。

 

なお、広告表現に関しては「医療広告ガイドライン」を遵守することが求められます。

 

◆業界関連費

医師会や関連団体への加入費用です。

 

医療業界のネットワークづくりや情報共有のためには除外しにくい支出と言えます。

 

また、開業医は勤務医とは違って専門医資格の維持費や学会参加の費用などは自己負担になります。

 

◆当面の運転資金

開業後、実際に収益を得るようになるまでには数ヵ月を要するでしょう。

 

スタッフの給与や水道光熱費など、クリニックの運営が軌道に乗るまでに必要な資金を確保しておくことが肝要です。

内科と整形外科の開業資金

クリニックを開業するための資金は診療科によって異なりますが、ここでは内科と整形外科を例に、それぞれの特性を踏まえて紹介します。

 

◆内科の開業資金

内科クリニックは、一般内科と専門分野の内科(消化器内科、循環器内科、内分泌内科など)によって、開業資金が異なってきます。

 

一般内科の場合、専門分野に比べ診療機器の種類は少なく、開業資金も相対的に抑えられる傾向にあります。

 

一方、専門分野の消化器内科では上部・下部の内視鏡、内分泌内科では超音波診断装置など、特殊な機器とそれに伴うスペースが必要になり、より多くの資金が求められます。

 

また、循環器内科や脳神経内科は開業後の立ち上がりが弱く、患者様が定着するまでに時間がかかるため、運転資金を十分に考慮する必要があります。

 

このような背景から、内科の開業資金は、5,000万円~8,000万円を目安とされることが一般的です。

 

◆整形外科の開業資金

整形外科の開業資金は、リハビリテーション設備や人員体制、検査機器をどのような規模に設定するかが大きく影響します。

 

リハビリテーションを充実させて幅広い対応を目指すのであれば、物理療法を行うための各種機器の導入と、理学療法士や作業療法士といった専門スタッフを確保しなければなりません。

 

検査にこだわるのであれば、レントゲンや骨密度測定装置、MRIなどの高額な検査機器を導入する必要もあるでしょう。

 

いずれにしても初期費用を大きく押し上げることになるため、診療コンセプトや開業エリアの診療ニーズをよく吟味することが肝要です。

 

こういった特性から、整形外科の開業資金は、5,000万円~9,000万円以上が見込まれます。

 

ただし、開業初期にすべての設備や人員を揃えるのではなく、段階的に充実させていく開業プランも検討できます。

自己資金の目安と資金調達方法

クリニック開業に必要な自己資金の目安は、一般的に開業資金全体の約20%程度とされています。

 

金額としてはおおむね1,000万円以上を用意する必要があるでしょう。

 

自己資金は融資条件や将来的な事業展望を考える上でも重要な要素です。

 

一方、自己資金だけでは足りない資金を調達する方法にはいくつかの選択肢があります。

 

例えば、日本政策金融公庫や民間の金融機関、医師信用組合などの融資制度のほか、リース会社による貸付制度、国や地方自治体の補助金・助成金などが考えられます。

 

融資を受ける際には、詳細な事業計画書や返済計画などを提示し、信頼を獲得しなければなりません。

 

クリニック開業に向けては、診療科目の特性や開業エリアの地域性、競合クリニックとの差別化を踏まえた資金計画を立てることが重要です。

開業に必要な資金を導き出すのは、周到な事業計画から

クリニック開業に必要な資金は多岐にわたりますが、基本的には物件、設備、医療機器、人材、広告宣伝、その他諸経費などが挙げられます。

 

どの項目に重点を置くかは、診療コンセプトや地域性、競合クリニックの状況などを考慮する必要があります。

 

いずれにしても、開業にかかる費用の項目を認識することで資金計画が立てやすくなるでしょう。

 

開業資金の振り幅は、内科、整形外科など診療科の特性によって数千万円単位で上下します。

 

周到な事業計画を立て、自己資金に加えて適切な資金を調達することで、安定したクリニック経営を目指しましょう。

 

【参考サイト】

e-Stat 政府統計の総合窓口/医療経済実態調査(医療機関等調査)

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450381&tstat=000001211580

 

 

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