人間の行動を読み解く「行動経済学」。ときに不合理な選択をとってしまうのはなぜなのか、橋本之克氏の著書『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』(総合法令出版)より、その心理をみていきましょう。
ゴミのポイ捨てをなくすため「罰金22万円」を科したシンガポールで、ポイ捨てが“増えた”ワケ【行動経済学】
罰金があるのにポイ捨てが増えた理由
シンガポールの罰金制度は厳しいことで有名です。日本では普通のことでもシンガポールでは罰金、という行為もたくさんあります。例えば、ゴミのポイ捨てです。
日本では(モラルに反する行為ですが)、罰金を科されることはありません。ところが、シンガポールでは罰金刑です。初犯は最高2,000シンガポールドル(約22万円)で、再犯は4,000シンガポールドル(約44万円)、3回目以降は1万シンガポールドル(約110万円)の罰金が科されます。
またシンガポール国内では、一部を除くチューインガムの輸入と販売が禁止されています。チューインガムを持って入国するだけで1万シンガポール(約110万円)という高額の罰金対象です。
これらの効果もあって、シンガポールの観光地や市街地はきれいで、「fine city(すばらしい都市)」と呼ばれます。ただし、そのfineという言葉には実は罰金という意味も含まれます。
シンガポールは、東京23区と同程度の面積約720km2に、564万人が住んでいます。罰金制度が厳しい理由は、価値観が多様な多民族・多宗教国家の秩序を維持するため、と言われています。その民族構成は中華系74%、マレー系14%、インド系9%で中国系を中心に多様です。言語はマレー語を国語としますが、公用語は英語、中国語、マレー語、タミル語と多く、宗教も仏教、イスラム教、キリスト教、道教、ヒンズー教と混在しています※。
※ 外務省ホームページより
ところがこの数年、ポイ捨てによる罰金刑が増えているようです。2014年に一度、ポイ捨ての罰金を引き上げたにもかかわらず、その翌年に32%も罰金者数が増えました。その7割はシンガポール住民で、出稼ぎなどの外国人が多いわけではありません。
こういった状況を受けてシンガポールでは、法的な罰則以外に、幼少期からのモラル教育を重視するなど対応を模索しています。