震災への備えのため、木造の住宅から鉄骨造やRC造への建て替えニーズが増えている中、実は一方で昨今の環境意識の高まりから「木材」を見直す動きもあるのはご存じでしょうか? 木を使用した高層ビルが企画されているほか、さらには木造の人工衛星計画も……。本記事では、知られざる木の可能性と最新テックについて迫ります。
木造の高層ビル、木造の人工衛星…可能性広がる「木材テック」

伝統的な工法の“純木造”ビルも登場

さらに“純木造”のビル建築の動きも出始めています。

 

注文住宅事業などを手掛けるAQGroupでは、2024年4月に埼玉県さいたま市に、純木造8階建てのAQGroup本社ビルを建築しました。同ビルは、純木造中規模建築物の普及型プロトタイプとして建築されたもので、国内で最も普及している伝統的な工法の「木造軸組工法」をベースとした技術を採用。一般的なビルで使われる免震装置を用いず、木材だけで建物を組み上げる「木組み」の構造体で設計・施工しているのが特徴です。

 

「AQGroup」本社ビル(AQGroup提供)
「AQGroup」本社ビル(AQGroup提供)

 

「AQGroup」本社ビル・夜の様子(AQGroup提供)
「AQGroup」本社ビル・夜の様子(AQGroup提供)

 

木造中大規模建築は、これまで高い建築費が普及上の課題となっていましたが、同社では、モジュール化やグリッド化によって材料を無駄なく使用。また、これまでのビル建築の主流は大断面集成材などの特殊材でしたが、今回の本社ビルでは一般流通材を組み合わせることで同等の強度を実現し、さらに特殊な金物ではなく住宅用の金物の組み合わせで接合することなどで、一般大工でも施工が可能に。こうした工夫は建設コスト削減にもつながり、これまでの木造ビル建設と比較して二分の一のコストでの建築を実現しています。

 

同ビルは、各省庁からの視察を含む多方面からの問い合わせが相次ぐ中、今後については、「日本全国にフォレストビルダーズを結成し、高い技術を持った意匠設計者や構造設計者、プレカット業者と連携するなどして、組織力で普及に努める」ことを構想。中大規模木造建築を精力的に展開していく方針です。

 

「AQGroup」本社ビルのエントランス(AQGroup提供)
「AQGroup」本社ビルのエントランス(AQGroup提供)

 

木造ビルはこのほかにも、海外で着工する事例も登場しています。

 

たとえば国内外で建設事業を展開する大林組は、オーストラリア企業との共同企業体で、2022年8月から木造ハイブリッド構造としては世界最高となる高さ182m、地上39階建ての高層ビルプロジェクト「アトラシアン・セントラル新築工事」に着手。ニューサウスウェールズ州シドニー市に建築される高層ビルで、7階から上階は鉄骨と、板の層を各層で互いに直交するように積層接着した厚型パネル「CLT」を採用した木造ハイブリッド構造になっているのが特徴。工期は2026年までを予定しており、世界で最も高い木造ハイブリッド構造のビルとして完成後、注目を集めそうです。

 

高層ビルプロジェクト「アトラシアン・セントラル新築工事」(大林組提供)
高層ビルプロジェクト「アトラシアン・セントラル新築工事」(大林組提供)

木造人工衛星、2024年9月に宇宙へ!

木材の活用はビルや住宅にとどまりません。なんと現代では、人工衛星にも活用されています。

 

京都大学と住友林業は2024年5月、約4年をかけて共同開発した世界初の木造人工衛星「LignoSat」が完成したと発表しました。木造人工衛星は1辺が100mm角のキューブサットと呼ばれる超小型の衛星で、構体には、宇宙で安定して使用できる樹種としてホオノキ材を使用。構体の構造には、ネジや接着剤を一切使わずに木と木を強固に組み上げる「留形隠し蟻組接ぎ」と呼ばれる日本古来の伝統的技法を採用しています。

 

世界初の木造人工衛星「LignoSat」(京都大学提供)
世界初の木造人工衛星「LignoSat」(京都大学提供)

 

従来、役目を終えた人工衛星は宇宙ゴミにならないように大気圏に再突入させて燃焼させることが国際ルールとなっていますが、金属製の衛星は燃焼の際に微粒子を発生させ、地球の気候や通信に悪影響を及ぼす可能性があるとされていました。一方、木材であれば大気圏への再突入の際に燃え尽きるというメリットがあるため、将来的に木造の人工衛星が増えることで、この影響の低減が期待できそうです。

 

この木造人工衛星は、9月に米国フロリダ州のケネディ宇宙センターからロケットに搭載されて打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)に移送。ISS到着から約1カ月後に「きぼう」日本実験棟から宇宙空間に放出される予定です。

 

高層ビルから人工衛星まで、さまざまな場面で活用が進む木材。持続可能な資源であり、建設・製造時のCO2排出量が少ない木材は、環境配慮の面からも今後活用が進むことが期待されています。科学技術の進歩とともに、さらに可能性の幅を広げていくであろう木材に、ますます熱い視線が注がれそうです。

 

 

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<著者>

カワハタユウタロウ

フリーライター。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、Eコマース・通販関連業界紙の編集部に約7年間所属。その後、新聞社系エンタメニュースサイトの編集部で記者として活動。2017年からフリーランスのライターとして、エンタメ、飲食、企業ブランディングなどの分野で活動中。