離婚が成立した場合、「財産分与」を行う必要があります。しかしながら離婚に至るまでの過程で関係性が壊れてしまい、夫婦間の話し合いが難しい場合もあるでしょう。では、すんなり財産分与を受け入れてくれれば万事解決かというと、そうとは限らないと露木行政書士事務所の行政書士である露木幸彦氏はいいます。本記事では、露木氏が唐津美枝子さん(61歳・仮名)の事例とともに、財産分与における配偶者の「隠し財産」への対策について解説します。
「夫と同じ墓に入りたくないんです…」夫の飲酒・女性・金銭すべてのトラブルに耐え続けた61歳“サレ妻”がついに離婚を決意!「財産分与」で受け取る金額を〈約1,300万円〉上乗せできたワケ
夫が提示した財産の内訳は…
とはいえ、無条件というわけにはいきません。少なくとも世間一般的に不利ではないお金を受け取ることが前提です。そこで筆者は「法律上、夫名義の財産であっても夫の特有ではなく夫婦の共有です。(民法762条)そのため、離婚する場合、夫の財産を分けるように求めることができますよ(民法768条)」とアドバイス。実際のところ、美枝子さんの財産の取り分は夫の勤務年数(41年)と結婚年数(37年)の重複分の2分の1です(ただし、年金の計算はまた別です)
こうして美枝子さんが夫へ離婚を承諾すること、具体的な条件を提示してほしいことを伝えたところ、1ヵ月後に夫から書面が届きました。夫は自分の財産のうち、上限で3,669万円を渡すと言っています。さらに金額については根拠となる資料を添付する念の入りようでした。この資料に嘘偽りはなさそうですが、美枝子さんは「これで判を押してもよいのでしょうか?」と悩みます。夫が提示してきた条件と添付の資料の組み合わせは以下の通りです。
1. 退職金(1,148万円)⇒会社の人事課が発行した試算
夫は退職金として相応の金額を払うと言ってきました。試算書によると仮に夫が今すぐ退職した場合、退職金の金額は2,546万円。そのため、夫が美枝子さんに支払う金額は1,148万円です。ただし、実際に定年退職するのは今ではなく2年後です。退職金は定年時に一括で支給されますが、基本的に前借することはできません。そのため、夫が美枝子さんへ支払うのは2年後です。
2.預貯金(445万円)⇒銀行が発行した口座の残高証明書
預貯金についても相応の金額を払うと言ってきました。夫は日本に四つの口座を有しており、残高証明書によると残高の合計は988万円。そのため、美枝子さんの取り分は445万円ですが、これは離婚時に支払ってくれるようです。
3.厚生年金(計1,500万円)⇒年金事務所が発行した試算書
厚生年金については年金分割の手続に協力すると言ってきました。結婚期間中に収めた夫、妻の年金を合計し、合計額を折半することを年金分割といいます。具体的な金額は年金事務所で発行してくれる年金分割のための情報提供書に書かれています。戸籍謄本、年金手帳を提出すれば無料です。
夫が用意した試算によると年金分割の結果、美枝子さんの年金は毎月5万円増え、夫の年金は毎月5万円減るそうです。たとえば、年金を65歳から受給を開始し、80歳で終了したとして、美枝子さんの年金の増加分は900万円です。90歳で終了するなら1,500万円です。