固辞し続けた「離婚」に10年越しで踏み切ろうと思ったワケ

このように美枝子さんは離婚の二文字を頑なに固辞してきましたが、ここにきて「離婚してもいいかなと思っています」と言い出しました。筆者が「どうして気が変わったのですか?」と聞くと美枝子さんは「きっかけはがん検診でした」と答えます。

検査の結果、食道がんと診断されたのですが、美枝子さんにとって青天の霹靂。担当医から手術による切除をすすめられたそう。「手術が怖くて3ヵ月間、何も考えられませんでした」と振り返ります。

しかし、毎月の検査をするたびに腫瘍マーカーの数値がどんどん上昇。美枝子さんは背に腹はかえられず、手術を受けることに。そして術後には抗がん剤の治療が待っていました。

結局、美枝子さんは5ヵ月間も入院することを余儀なくされたのですが、当時は新型コロナウイルスが蔓延している最中。家族であっても面会することができない状況でした。美枝子さんは「精神的に本当につらかったです」と回顧します。

ところで美枝子さんが入院していた病院には図書館が併設されていました。美枝子さんは不安な気持ちを紛らわすため、仏教、神社神道、ユダヤ教、キリスト教など死に関するありとあらゆる本を手にとったのですが、そのなかで「ある気付き」を得たそうです。それは何でしょうか?

もし、美枝子さんが夫より先に亡くなった場合、まだ唐津家の人間なので、美枝子さんの遺骨は唐津家の墓におさめられるでしょう。そして夫が亡くなったら、やはり唐津家の墓に入ることになり、美枝子さんは「死後の世界でも夫と一緒なのでは?」と怯えているのです。

しかし、離婚したら美枝子さんと夫は戸籍上、他人になります。美枝子さんは「唐津家の墓に入らないことが私の望みなんです!」と強調します。美枝子さんは大病を患い、人生観が変わり、自分の人生を俯瞰する機会に恵まれました。「今の苦しみを死後まで引きずりたくありません。そのため、夫との『縁』を今すぐ断ち切りたいんです!」と言い切ります。そんな一心で離婚に応じることを決めたのです。