中高齢になると考え始めてしまうのが、高齢になった両親の健康面。Uターン転職や、場合によっては介護離職を選択する人も。しかし、待ち受ける介護や年金生活を前に、両親のことだけでなく自身のライフプランについても見通しを立てることが大切です。介護にかかる費用や日本の介護の現状について、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
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再雇用で給与が5割カット…大輔さんの今後のライフプラン
問題は大輔さんの将来です。現在大輔さんは会社の理解もあり、母親の介護のために、残業をすることなく定時に退社して、また泊りがけの出張もありません。
大輔さんの毎月の手取り給与は約28万円です。5年後の60歳に定年を迎え、その後65歳までは再雇用されるそうですが、給与は60歳の時点の50%近くになるとのこと。また65歳からの老齢厚生年金の受給見込額は月18万円です。
大輔さんは、給与の半分は家に入れて、残りは貯蓄に回しています。貯まったお金で自動車を買ったり旅行に行ったりして、現在の貯蓄は約500万円。このまま65歳まで会社に勤めれば、自宅もあり単身で老後の生活はなんとかやっていけそうです。
“会社を辞める”という選択肢
大輔さんは、母親が施設に入所すれば以前のように勤めることができて、施設で生活する母親を心配しながらも、生活面でも経済面でも落ち着いた生活ができることは重々承知していました。
しかし大輔さんは、叔母に言われたことに意地もあり、母親を施設に入所させたくはないと言います。
大輔さんは、「いま会社を辞めて、65歳からの老齢厚生年金受給までの無収入の10年間を、約400万円の退職金と貯蓄、また母親がデイケアに行っている間の短時間のアルバイトで食い繋ぎ、65歳からは年金で生活できないか」と考えたそうです。
筆者は、その10年間で退職金も貯蓄も底をつき、65歳からの年金受給見込額も65歳まで働くより毎月3万円減り、月額15万円になってしまうと話しました。
ここは、ケアマネージャーや地元の地域包括支援センターなどに相談して、専門的な知識を得てから、行動することを勧めます。
大輔さんの出した結論
しばらく経った土曜日、筆者のところに再び大輔さんが訪れました。
大輔さんは、あれからケアマネージャーや地元の地域包括支援センター、主治医にも相談したようです。当面の間、母親はこれまで通り平日はデイケアに通い、さらに土曜、日曜も自宅にヘルパーを手配。母親の夕食も毎日専門業者に宅配してもらうとのこと。これで、大輔さんの負担も軽減できそうです。
大輔さんは、「急に母親の世話をすることになり、母親の健康や家計の面でも悪くなることばかり考えてしまいました。叔母の言っていたことも、冷静に考えればもっともな話です。ただ、あの叔母は子どもの頃から苦手でして……」と穏やかな顔で話してくれました。
「近いうちに、私の老後の相談にも乗ってください。母が待っていますので失礼します」と、足早に帰っていかれました。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員