投資が以前よりも身近になり、「足りない老後資金を投資で補完しよう」といった話を聞くことが増えました。しかし、きちんとした知識もなく甘い誘惑に踊らされて投資を始めて判断を誤ると、後悔をすることになるかもしれません。本稿では、投資を始めたものの予期せぬ出来事をきっかけに将来設計が大きく揺らいだ石丸さん(55歳・仮名)の事例をもとに、FPの青山創星氏が「投資のポイントと注意点」について詳しく解説します。
もう老後の心配はありません…。55歳会社員「年金の上乗せ対策は完了」と余裕の笑みを浮かべていたが…突然の胃がん発覚を機に「家計破綻の危機」に陥ったワケ
まさかの「胃がん」発覚。基本給が低く保険も未加入で不安が襲い掛かる
石丸さんの生活は、胃がんの診断を受けたことで一変しました。手術は無事に終わりましたが長期療養が必要となり、仕事への影響は避けられません。中古車販売の営業職としてそれなりの収入はありましたが、石丸さんの収入の大部分は営業インセンティブによるものでした。基本給は低く設定されており、残業や休日出勤をこなし、さらに営業成績を上げることで、それなりに余裕のある家計を維持していたのです。
しかし、療養期間中は、そのような働き方は到底不可能ですし、完全に本調子に戻るには時間が必要です。「このままでは、収入がかなり減ってしまいそうだ……」石丸さんは不安に駆られました。住宅ローンの返済、子どもたちの教育費、日々の生活費。これらの支出はこの先も変わらず続きます。
そんななか、石丸さんは自分の投資状況を改めて確認しました。新NISAの成長投資枠で購入した投資信託は、240万円で買ったものが200万円まで下落していました。「増えることしか考えていなかった…このタイミングで売ったら損しただけになってしまう」と、売却の踏ん切りも尽きません。
つみたて投資枠で毎月10万円積み立てている世界株投信も、思うような成果が出ていません。iDeCoの毎月2万3千円の掛け金も、今の状況では大きな負担に感じられました。
投資を始めたときの高揚感は影を潜め、代わりに後悔の念が湧き上がります。「今はこの程度でも、この先もっともっと減るかもしれない」「保険をしっかりかけておくべきだったのかも」「貯金をもっと残しておくべきだった」……様々な思いが石丸さんの頭のなかを駆け巡ります。
妻は近隣のスーパーマーケットで事務職として働いていますが、その収入だけでは家計を支えきれません。「最悪の場合、家を売らなければならないかもしれない」という現実が、石丸さんの心に重くのしかかります。